引き続き、ジョージ・ソロス氏の保有するSoros Fund ManagementのCEO、ドーン・フィッツパトリック氏のBloombergによるインタビューである。
今回は中国株について語っている部分を紹介したい。
フィッツパトリック氏のお気に入りのトレード
フィッツパトリック氏はこれまでの記事で、トランプ政権が株安を許容する可能性を指摘した上で、金利低下を予想していた。
比較的アメリカ経済に弱気の相場観である。
だが米国株がこのまま暴落するなどということも予想していないようだ。だとすれば、Soros Fund Managementは株式市場では今何をしているのか?
気に入っているトレードはあるかと司会者に聞かれ、フィッツパトリック氏は次のように答えている。
それは良い質問だ。例えば去年、われわれは香港ハンセン指数のコールスプレッドを買った。そのトレードは今でも気に入っている。
前から思っていたが、フィッツパトリック氏はヘッジファンドマネージャーとしては珍しいくらいに気さくになんでも話している。他の著名投資家と違い、ポジションを公開することにもあまり躊躇いがないようだ。
脇道にそれるが、明るく知的な彼女の性格はアメリカ人女性の良い部分を体現しており、(ハリス氏やクリントン氏などではなく)彼女のようなタイプがもし大統領選挙に出れば、いくらでも男性の政治家を蹴散らせるだろうが、彼女のような人物は稀である。
ソロスファンドの中国株買い
中国株に話を戻そう。フィッツパトリック氏の買ったコールスプレッドとは、株価上昇に賭けるコールオプションの買いに似ているが、利益の最大値を制限する代わりに時間経過による価値減少を減らせるものである。
いずれにしても簡単に言えば、中国株の株価上昇とボラティリティの上昇を予想したということである。そして香港ハンセン指数のチャートは去年から次のように推移している。

まさにその通りになっているわけである。
フィッツパトリック氏は次のように言っている。
今でもそのポジションは維持している。
中国とアメリカ
また、トランプ政権の関税に関して対立している中国とアメリカだが、フィッツパトリック氏は何らかのディールが結ばれると予想しているようだ。
フィッツパトリック氏は次のように述べている。
マクロとミクロの経済データをアメリカと中国で比べてみれば、中国とアメリカが接近しなければならない経済的必要性が見えてくる。
また、アメリカなどの海外の投資家の動向についても次のように述べている。
投資家に関して言えば、海外の投資家は中国を既に完全に脱出している。
だから資金はもう出ていかず、入ってくるしかないだろう。
Soros Fund Managementらしい逆張りである。状況は最悪まで行けば、あとはもう改善するしかない。投資家が完全に出ていった後ならば、あとは資金流入しかないのである。
ヘッジファンドと中国株
そもそも中国株が上昇している理由は、これまで中国経済を支えてきた不動産バブル崩壊がもう何年も収まっておらず、ついに中国政府が緩和に動いているからである。
Bridgewaterのレイ・ダリオ氏も去年から中国株を推しており、予想通り中国株は上昇している。
ダリオ氏は中国株を推す理由として、中国政府の緩和政策と分散投資を挙げていた。
ダリオ氏の言う分散投資とは、単にやみくもに多くの銘柄を買うことではなく、一方が下落する時に同じように下落しないような銘柄を買うことである。
そして今まさに、米国株が下がっている時に中国株は上がっている。両方持っていた人は、米国株が下落している中で中国株に救われるわけである。それこそが真の分散である。
結論
中国株はこれからも上がってゆくのか。フィッツパトリック氏は次のように述べている。
これは短期的なトレードであって、長期保有するようなものではないが。
だが去年から持ち続けているのだから、ある程度期間の長いトレードではあるのだろう。緩和の効果が疑われるような状況になれば手を引くということだろうか。
一方でダリオ氏は、中国経済の難局を認めながらも、長期的には中国がアメリカを抜いて世界一の経済大国になるという予想を取り下げていない。
ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で述べている通り、覇権国家には寿命があり、歴史的には100年ほどで覇権国家は後退してきたからである。
そして何よりアメリカには明らかな衰退の徴候が出ており、今年、著名投資家は誰もがそれを懸念している。
もしダリオ氏の予想が正しければ、中国株は今大底からの回復の途上にあることになる。株式に長期投資している投資家ほど、米国株と中国株を長期的に考えるべきなのである。

世界秩序の変化に対処するための原則