ソロスファンド: トランプ政権は株価下落を気にしない

ジョージ・ソロス氏の保有するSoros Fund ManagementのCEOを任されているドーン・フィッツパトリック氏が、Bloombergのインタビューで2025年に入ってからの株安について議論している。

トランプ政権で株価下落

トランプ政権が始まって3ヶ月目になろうとしているが、フィッツパトリック氏は現状の株式市場をどう見ているだろうか。

フィッツパトリック氏は次のように語っている。

市場はもっと良くなるだろうと思ってはいたが、トランプ政権がここまでやるとも思っていなかった。過去24時間のニュースを見ても、政策の速さも規模も驚くべきほどだ。

米国株は2月後半から下落している。今の株価水準は、11月の大統領選挙でトランプ氏が勝利した時の水準にほぼ近い。

つまり、その後の株価上昇をすべて吐き出した水準ということになる。S&P 500は次のように推移している。

トランプ政権と金利

これは意外ではないか。トランプ政権は株価を押し上げるというのが前回のトランプ政権からの投資家たちの印象だっただろう。

だが一方で、筆者は今回のトランプ政権に株価を押し上げる余地がほとんど残されていないことを以下の記事で指摘しておいた。

いずれにせよ、トランプ政権の経済政策で特に重要なのは財務長官のスコット・ベッセント氏だろう。

そしてベッセント氏はSoros Fund ManagementのCIOだったヘッジファンドマネージャーであり、つまりはフィッツパトリック氏の先輩にあたる。

フィッツパトリック氏はベッセント氏の後任として来たので任期は被っていないのだが、彼女はベッセント氏について次のように述べている。

スコットは非常に賢い人だ。彼は優秀で、歴代の財務長官の中でももっとも市場に精通した人物だろう。

スコットの発言は文字通りに受け取るべきだ。彼とトランプ大統領は10年物国債の金利を重要視すると言った。だからむしろ市場が過熱し過ぎないように気を遣っているはずだ。

フィッツパトリック氏によれば、ベッセント氏は金利を気にしているし、その事実を投資家は重視すべきだという。

フィッツパトリック氏は次のように続けている。

大統領選挙の直後には株価は上がった。

だがここ最近は違う動きになっている。そして10年物国債の金利は1月半ばの4.8%から下がった。

金利が上がっていた時、スコットたちはそれを気にしていたはずだ。思い出してほしいのだが、関税のタイミングを延期したのはその時だった。

アメリカの10年物国債の金利は次のように推移している。

今回のトランプ政権は株価下落を気にしない

重要なのは、トランプ政権発足以来、政権から聞こえてくるのが関税の話と経費削減のために公務員を解雇している話だけだということだろう。

最初は期待で株価も上がっていたが、景気対策がここまで何も出ないと株式市場も期待が剥がれざるを得ない。

そして更に重要なことに、フィッツパトリック氏によればそもそも今回のトランプ政権は株価をそこまで気にしていないという。

フィッツパトリック氏は次のように述べている。

また、投資家たちが過小評価しているのは、前回のトランプ政権ではトランプ氏は株価を気にしていると誰もが思っていたし、それは事実だったが、スコットが財務長官の今は株価下落への耐性が前回とは違うということだ。

彼らは株価単体よりも広範囲な資産クラスについて気にしている。

これは興味深い観点である。相場を知り尽くした財務長官がいるからこそ、トランプ政権は株式市場を金融市場の1つとしか見ないとフィッツパトリック氏は予想している。

確かに、筆者やフィッツパトリック氏やベッセント氏のようなグローバルマクロ戦略の投資家にとって、株式市場は数ある市場の1つに過ぎない。

何より、債券市場は最重要市場の1つである。だから例えば国債と株価のどちらかを選ばなければならなくなった時、トランプ政権はどうするだろうか?

フィッツパトリック氏はややぼかして次のように述べている。

だから必要になった時には前政権時よりも多くの選択肢を選べるだろうと思う。

アメリカの実体経済

これは筆者の肌感覚だが、株式市場はまだトランプ政権が株価の下落に対して救いの手を差し伸べるのではないかという楽観を捨てきれていないように思う。

そこに、フィッツパトリック氏の予想通りトランプ政権が株安を無視したとしたら、株価にとっては更なる痛手になるだろう。

だがそもそも株価は何故下がっているのか。筆者は関税がアメリカの実体経済をそれほど損なうとは考えていない。関税の話は前回のトランプ政権でもやったではないか。そしてそれは経済全体にはほとんど影響を及ぼさなかった。

恐らくベッセント氏もそう考えているのではないか。だがベッセント氏の後任であるフィッツパトリック氏は、ベッセント氏の見解に異を唱えるように次のように言っている。

関税についての教科書通りの主張は、財務長官が言ったように企業が価格上昇圧力を吸収し、しかも価格の変化は1回きりのものだというものだ。

だが消費者や企業のセンチメントはコントロールできないものだ。そしてそれが崖から落ちかけている。