レイ・ダリオ氏: 米国債は暴落して中央銀行が買い支え、コロナ後よりも大規模な緩和が来る

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、Bloombergのインタビューでアメリカの債務危機と金融緩和について話している。

死のスパイラル

2025年に入ってから、ダリオ氏は米国債の話ばかりしている。コロナ後の金利上昇で米国債には多額の利払いが発生しており、米国政府は国債の利払いを新たな国債発行で賄っている。

借金が借金を呼ぶ状況である。ダリオ氏はこれを「債務の死のスパイラル」と呼んでいる。

国債価格の下落と金利上昇

国債が大量に発行されると、債券市場では買い手が不足する。コロナ前までは中央銀行が量的緩和で買い支えていたが、インフレが発生したことで簡単に紙幣印刷を行うことができなくなった。

大量の新たな国債を投資家が買い支えられなくなったとき、米国債は下落するしかない。定義上、国債の価格下落は金利上昇を意味する。

だからダリオ氏は次のように言っている。

国債の需要と供給に問題が発生する。金利が急上昇し、大きな引き締めが発生する。

金利が上昇すれば、実体経済や株式市場にとってはマイナスになる。例えばコロナ後の急激な金利上昇によって、2022年には米国株は30%近く下落した。

だがダリオ氏の予想するこれからの金利上昇は、こうした過去の金利上昇よりも酷いものである。

何故ならば、2022年の金利上昇は中央銀行の利上げによって起こったものである。だがダリオ氏は次のように言う。

中央銀行が緩和しているにもかかわらず金利が上がる状況が発生する。

それは既に起き始めている。Fed(連邦準備制度)は去年9月から利下げをし、政策金利は下がったのだが、長期金利はむしろそこから上がっている。

債券の専門家であるジェフリー・ガンドラック氏もこれを異常事態だと見なしていた。

紙幣印刷の再開

要するに、国債の過剰発行による金利上昇圧力が強いため、利下げという緩和が長期国債に効いていないのである。

今はまだ良いが、国債の発行が増えるにつれて金利への上昇圧力は増してゆくだろう。そしていつか金利上昇がアメリカ経済と米国株を下落させる。

ダリオ氏は次のように述べている。

それで中央銀行は市場に介入して国債を買うことになる。量的緩和の再開だ。

利下げで間接的に国債を支えられないなら、直接買うしかないということである。

その時の状況にもよるが、もし金利上昇がアメリカ経済を大きく減速させるような状況になっていたとしたら、それはただの量的緩和では済まないかもしれない。

ダリオ氏は次のように続けている。

2008年や2020年にやったようなことが起きる。しかしもっと大規模に。

2008年はリーマンショックの年であり、アメリカはその後量的緩和を開始し、中央銀行が国債を買い入れた。

2020年はコロナショックの年であり、2年間の現金給付で世界中がインフレになった。

興味深いのは、ダリオ氏が次の緩和はこの2つの事例よりも大規模になると言っていることである。

結論

だがコロナ後の現金給付はアメリカでは10%近いインフレを引き起こし、日本ではインフレの状況下での緩和継続が日本円の価値を暴落させた。

それよりも大規模な緩和は、どういうインフレを引き起こすのか。

しかしそれほどの状況になるのも自然だろう。少なくともこれまでの経済危機では、緩和で米国債の金利は下がっていた。だが今では緩和をしているにもかかわらず、長期金利が上がっている。

少なくともこれまでは経済を支えるための緩和であり、米国債の下落を止めるための緩和ではなかったからだ。だが今の長期金利の推移などは、明らかに国債の買い支えが必要となる前兆である。

そしてそれは対価なしには出来ない。そして対価は、コロナ後のインフレよりも酷いものになるだろう。

ダリオ氏は今後について以下のように纏めている。

金利が上がり、特にゴールドなどと比べて紙幣の価値が下がる。

ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で説明している予想では、積み上がった先進国の政府債務はインフレや通貨安で精算されるほかない。

筆者は最近の株安にもかかわらず、ゴールドやシルバーがほとんど下がっていないことが気にかかっている。それは何かの予兆ではないのか。


世界秩序の変化に対処するための原則