ヘイコック氏: 中央銀行はゴールドのベストフレンド、金価格はここから大きく上がる

引き続き、Von Greyerzのパートナーであるジョニー・ヘイコック氏の自社配信動画でのインタビューである。

今回はヘイコック氏が金相場の長期的な見通しについて語っている部分を紹介したい。

米国債の価格下落

ヘイコック氏は前回の記事で、国債の価格下落が2年前のクレディスイスやシリコンバレー銀行のような銀行危機を再発させると予想していた。

もう思い出す人も少ないだろうが、銀行が保有する国債の価格が下落し、取り付け騒ぎとなったシリコンバレー銀行などの銀行危機は、インフレと金利上昇によってもたらされたものである。

ヘイコック氏は、金利上昇が止まらない限りは銀行危機も再発すると考えている。困るのはそうした銀行の預金者だろうか? そうではない。ヘイコック氏は次のように述べている。

2008年のリーマンショックや、2年前の銀行危機もあったが、銀行は大きすぎて潰せない。

だからどうなるかと言えば、紙幣印刷が行われ、銀行は救済され、金融機関は救済される。だが結果として紙幣の購買力は減り続ける。

実際、シリコンバレー銀行などの銀行危機ではそうなった。Fed(連邦準備制度)が紙幣印刷で預金者を救済した。

結果としてアメリカのマネーサプライ(貨幣の流通量)は以下のように増加に転じており、筆者はこれがアメリカのインフレが収まっていない理由だと考えている。

紙幣の価値下落

だからヘイコック氏の予想する銀行危機の被害者は、預金者ではなくインフレを受ける人々ということになるだろう。

そして人々がインフレを懸念し金価格が上昇している。金価格は次のように推移している。

だがヘイコック氏は次のように説明している。

多くの人々が理解していないのは、金価格が上昇しているわけではないということだ。それがポンドであれ、ドルであれ、スイスフランであれ、円であれ、すべての通貨の価値が下がっているということだ。

1971年以来、ドルの価値は98%下がっている。

1971年というのは、言うまでもなくニクソンショックのことだろう。それまでドル紙幣は中央銀行に持っていけばゴールドを返してくれるゴールドの預かり証だったはずなのだが、1971年にニクソン大統領が人々から預かっていたゴールドを返さないと宣言した。

これが金本位制度の終わりである。現代人は何故か金本位制のことを旧世代のものと思っているが、その廃止とは単に人々から預かっていたゴールドを政府が盗み取っただけのことであり、それが「現代的」と言えば現代的なのかもしれない。

紙幣印刷と金価格

だがこれでドル紙幣は当然価値を失い、その価値はゴールドに対して大きく下落していった。ヘイコック氏の言う98%とはゴールドと比べたドルの価値下落のことだろう。

ゴールドは世界的な紙幣からの資金逃避で高騰しているが、物価一般(例えば消費者物価指数)と比べてもドルの価値は9割近く下落している。以下は1971年を100とした時のドルの価値(対消費者物価指数)の推移である。

何故こうなるのか。インフレ政策でインフレを目指してきたからである。このグラフは消費者物価指数の逆数を取ったものだが、逆数を元に戻せば当然グラフはドルの価値下落ではなく、物価の長期的な上昇を示すものとなる。

だからドルの価値下落とインフレは同じものである。むしろ、ものとものの相対的な価値はそれほど変化していないのに、ドルの価値だけが相対的に下落し続けているのだから、ドルの価値が長期的に下落しているのである。

この辺りの理屈はマクロ経済学の父であるアダム・スミス氏が『国富論』で非常に分かりやすく説明してくれている。

日本人は円安だからとドルを買い、価値の下がった日本円を基準にして「ドルが上がった」と喜んでいるが、そのドルも物価から比べれば価値が大きく下がり続けているのである。

そしてゴールドは資産逃避の需要からその物価一般よりも更に上がっている。1970年代の物価高騰時代にもそうだった。

結論

米国債が危機的な状況にあることはほぼすべての著名投資家が合意している。

というか財務長官のスコット・ベッセント氏も合意している。

国債の買い手が不足するとき、政府は国債をそのまま下落させるのか、中央銀行に紙幣印刷させて国債を救済し、紙幣の価値を犠牲にするのかの選択を迫られる。

そしてヘイコック氏は次のように言っている。

37兆ドルもの債務がある以上、出口は1つだ。紙幣を印刷してインフレで債務を帳消しにすることだ。

政府は常に通貨防衛よりも国債防衛を優先する。

そしてその時にゴールドはどうなるのか。ヘイコック氏は次のように予想している。

更なる紙幣印刷が来る。それこそが、中央銀行がゴールドにとって生粋のベストフレンドである理由だ。

だからわたしにはゴールドの上げ相場は一方通行であるようにしか見えない。今よりも更に大きく上がる。そして大半の人々はゴールドを持っていない。

繰り返すが、インフレとはものの価値が上がることではなく、紙幣の価値が下がることである。

だからインフレから逃れるための唯一の方法は、紙幣を持たないことである。

こうした経済現象を理解するには経済の勉強が必要だが、何よりもまずアダム・スミス氏の『国富論』は読むべきだろう。

マクロ経済学という概念がなかった時代に書かれたものであるために、一般人でも理解できる書き方で書かれているが、現代のマクロ経済学者の書いた大半の本よりもよほど価値のあるものである。

知識がないとインフレに搾取される。ヘイコック氏は、「まだ」大半の人がゴールドを持っていないことを強調している。


国富論