世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、自身のブログで新著『国家はどのようにして一文無しになるのか?』(仮訳)の内容を紹介している。
今回の記事ではインフレ政策と紙幣の価値下落について語っている部分を取り上げたい。
債務の長期サイクル
2020年にコロナ後の現金給付を見たダリオ氏が前著『世界秩序の変化に対処するための原則』を書き始めて以来、ダリオ氏の議論は国家の債務サイクルの話を前提にしている。
国家には最初借金がないが、経済成長して大国になるにつれて債務が徐々に増えてゆき、ピークを過ぎると経済成長を借金に頼るようになり、最終的には紙幣印刷によるインフレと債務過多で衰退してゆく。
これがダリオ氏の言う債務の長期サイクルである。ダリオ氏は新著で次のように言っている。
わたしの言っているのは、歴史上普遍的に債務の長期サイクルを引き起こし、債務危機や経済危機の原因となっているのは、存在するお金や商品、サービス、金融資産に対して持続不可能な規模に増加した債務だということだ。
国家は収入もないのに借金を増やしすぎたのである。持続不可能であればこれからどうなるのか。ダリオ氏がこれまで言っているのはインフレと通貨安である。
だがダリオ氏は今回もう1つ重要な結末に言及している。ダリオ氏は次のように言う。
そうした状況は、常に大きな債務危機と銀行の取り付け騒ぎに発展する。それは避けられない。
銀行の取り付け騒ぎ
ダリオ氏は次のように続けている。
取り付け騒ぎとは、人々が銀行にお金を返してもらいに行くが、銀行は十分なお金を持っておらず、銀行はデフォルトするか、中央銀行が紙幣を印刷できる場合は紙幣を印刷して返すことになる。
ダリオ氏はこれまで、コロナ後の金利上昇によって米国債の利払いが急増しており、米国政府は借金を新たな国債発行によって返済している点に着目し、米国債の発行過多で米国債が下落する危険性を警告していた。
米国債が下落するとどうなるのか。米国債の保有者が損害を負う。米国債の保有者とは誰か。銀行である。
銀行は、預金者からお金を預かって国債を買っている。そこで国債の価値が下落し、銀行の資金不足を人々が心配すると、人々は預金を引き出そうとする。
銀行は、国債を満期まで持ち続ければ、一時的に下落している国債の価値も元に戻る。だがそれより前に取り付け騒ぎが発生した場合、手持ちの国債をすべて売っても預金者に預金を返すことができない。
これは実際に2023年に起こったことである。地方銀行としてはかなり大きかったシリコンバレー銀行などいくつかの銀行が、米国債の下落に起因する取り付け騒ぎで倒産した。
Fed(連邦準備制度)はこれを紙幣印刷で助けた。それはインフレ打倒のために通貨の流通量を抑えようとしていたそれまでの動きとは真逆の行動で、筆者はそれこそがアメリカのマネーサプライ(通貨の流通量)が上昇に転じた原因だと考えている。
アメリカのマネーサプライは次のように推移している。
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Fedは銀行を取り付け騒ぎから救ったが、それがまさにFedが今利下げできない原因を作っているのである。
銀行危機は再開する
だから銀行危機は終わっていない。紙幣印刷によって一時停止しただけだ。だがお陰でアメリカ経済はインフレ側に進みつつある。
この状況を繰り返していると、いずれインフレが悪化し、紙幣印刷が行えない状況が来る。
以下の記事でアダム・スミス氏が解説しているが、インフレとはものの価値が上がることではなく、通貨の価値が下がることである。
だから預金者は、銀行が破綻して紙幣が取り出せないか、仮に取り出せても紙幣ではものが買えない状況に陥る。
ダリオ氏は次のように続けている。
典型的には、こうした資産の持ち主がお金を使ってものを買おうとし、本来自分の資産にあったはずの購買力がなくなっていることに気付くと、取り付け騒ぎは加速し、取り付けが取り付けを呼ぶ状況になる。
そして市場におけるものの価値が転倒し、債務はデフォルトし、再編され、マネタイズされる。それは債務が収入に見合った規模に縮小されるまで続く。
結論
日本でも米を含む食品の値段がかなり上がっているらしい。日本円の価値が暴落していることに気付いて、日本円から逃げ出す人も増えている。
筆者は日本円も米ドルも両方ともほとんど保有していない。
世界経済は危機的状況にある。だがダリオ氏によれば、これは何も新しい現象ではない。大英帝国など、債務を増やし続けた過去の大国が経験した状況が、今アメリカや日本に降り掛かっているだけである。
歴史上の大国が債務を増やした結果どういうことになったかは、ダリオ氏の前著『世界秩序の変化に対処するための原則』で詳しく説明されている。未読の人はそちらを参考にしてほしい。
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世界秩序の変化に対処するための原則