世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が自身のブログで新著『国家はどのようにして一文無しになるのか?』(仮訳)の内容を紹介している。
今回は日本円の運命を予想したような通貨に関するダリオ氏の議論を紹介したい。
日銀と日本の円安
日本では今、円安がギリギリ止まっている。アメリカの利上げが終わったこと、日銀の植田総裁が量的緩和に引導を渡し、利上げをしていることなどが理由である。
ドル円は次のように推移している。
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だが一方で、日銀の利上げにも限界が見られる。日本経済はお世辞にも力強いとは言えない状態であり、どれだけ利上げに耐えられるか微妙である。
そして日銀が去年12月に利上げをした時、為替相場はほとんど動かなかったように見えた。
元々の始まりは、2013年からのアベノミクスである。日銀は黒田前総裁のもとで、紙幣を印刷し国債を買い入れることを決めた。量的緩和である。
発行する国債があまりに多過ぎて、中央銀行に買わせなければならない状況は、ダリオ氏の言う国家の長期サイクルのうち、国家の寿命の終盤に見られる現象である。
だが量的緩和は通貨の下落を呼ぶ。アベノミクス以来、日本円の価値はドルと比べてほぼ半分まで暴落した。中央銀行による政府債務の救済とは政府債務の実質的価値をなくしてしまうことなのだから、量的緩和が日本円の価値を暴落させたのは理にかなっている。
問題は、政府債務とともに日本国民の預金まで価値が暴落し、今や日本人は輸入物価に対してアベノミクス前の倍の金額を支払っていることだが、ともかく中央銀行による債務の帳消し政策はここまで進んできた。
ダリオ氏は日銀のもたらした円安と低金利によって日本人がどれだけの資産を失ったかについても述べていた。
通貨安政策と通貨防衛
円安をもたらした張本人の黒田元総裁は後始末をすることなく何処かに消え、火中の栗を拾った元東大の植田総裁が後始末をすべく利上げをしている。
また、日本政府はここ数年、為替介入を行なって日本円の下落を止めようともしてきた。自分で円安を引き起こしたのに何を言っているのかと経済学者のラリー・サマーズ氏はこれを皮肉っていた。
ダリオ氏の歴史研究によれば、政府が自分のもたらした通貨安と戦わなければならなくなるのは、国家の寿命の終盤によく見られる現象である。
ダリオ氏は新著で、こういう状況では外貨準備に着目しろと言っている。外貨準備とは中央銀行が保有する自国通貨以外の資金のことで、為替介入にはこの資金が使われる。
ダリオ氏は次のように述べている。
この段階では多くの場合、負債に対する外貨準備の割合は減少してゆく。最初の理由は負債が増加するからだが、そこに通貨防衛のために外貨準備が取り崩されるという理由が加わる。
ダリオ氏は外貨準備を負債に対する比率で見ている。その国が借金と比べてどれだけの外貨準備を持っているかということが重要だからである。
始めのうちは政府は為替介入で通貨安を止めようとする。だが為替市場を少しでも知っている人ならばすぐに分かることだが、為替介入は焼け石に水である。為替市場とは世界で一番巨大な市場であり、外貨準備でも自由に操作できるようなものではないのである。
だから、ダリオ氏によれば政府はいずれ為替介入を諦める。ダリオ氏は次のように言っている。
政府が通貨防衛を諦めて通貨をありのままに下落させることを決めた後は、負債に対する外貨準備の比率は回復する。
通貨の下落が現地通貨建ての負債の価値を下落させ、外貨準備の価値を相対的に回復させて、国家は競争力を取り戻すからである。
興味深いのは、ダリオ氏が外貨準備(対負債)は転換点において下落してから上昇すると言っていることである。つまり、負債に対する外貨準備の比率に注目していれば、転換点が来たかどうかが分かる。
結論
中央銀行が為替レートを自由にできないのは、過去にはいくらでも例がある。スタンレー・ドラッケンミラー氏がクォンタム・ファンドでポンドを売り崩したポンド危機や、逆にスイス国立銀行がスイスフランを安く固定することに失敗したスイスフランショックなどである。
こういう時に投資家が考えるべきは、政府が買い支えをしている間にその通貨から逃げておけということである。ダリオ氏によれば、その買い支えはいずれ終わる。そして通貨は暴落し、政府の望み通りに政府債務の実質的価値は日本円の価値を道連れに無に帰ってゆく。
筆者はもはや日本円もドルもほとんど持っていない。ダリオ氏が前著『世界秩序の変化に対処するための原則』で解説した通り、紙幣の下落は長期的には避けられないからである。
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世界秩序の変化に対処するための原則