レイ・ダリオ氏: 中央銀行の低金利政策は預金者を犠牲にして政府の債務を助けるため

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が自身のブログで新著『国家はどのようにして一文無しになるのか?』(仮訳)の内容を紹介している。

今回は「インフレ目標」の名のもとにこれまで低金利政策が行われてきた本当の理由について語っている部分を取り上げたい。

インフレをもたらしたインフレ政策

コロナ前まで、日本でもアメリカでもインフレ政策なるものが行われてきた。2%のインフレ目標を掲げ、インフレを目指して利下げや量的緩和などのインフレ政策を行なってきたのである。

多くの日本人もそれを支持した。そしてインフレ政策はコロナ禍の現金給付を経て、見事にインフレをもたらした。そして人々は怒り始めた。

馬鹿ではないのかと思うのだが、多くの人は騙されたと思うだけでそもそも何故インフレ政策が行われたのかを考えない。1つ言っておくが、この件に関してだけは政治家たちは決して国民を騙していない。インフレ政策の結末はちゃんと名前に書いてあるではないか。他に何を引き起こすと思ったのか。誰か教えてほしい。

インフレ政策の目的

さて、インフレ政策の目的はそもそも何だったのか。前回の記事でダリオ氏が金利のサイクルについて語っていたことを思い出したい。

ダリオ氏によれば、デフレ・低金利の時代は金利が低いため借金をする人にとって得であり、逆に預金者にとっては損で、インフレ・高金利の時代には借金をする人は多くの金利を払わなければならず、逆に預金者は多くの金利収入を得られる。

ここまで言えば、中央銀行が恣意的に金利を下げようとした理由が分かるのではないか。ダリオ氏は次のように言っている。

政府が債務負担をコントロールするのを中央銀行が助けようと思えば、中央銀行は国債を買い入れることで国債の金利を名目経済成長率よりも更に下に押し下げる。そうすれば、他の条件が等しければ政府の債務負担の増加のペースは大幅に緩やかになる。

もちろんそれは借金の貸し手にとっては好ましくない。名目値でも実質値でも、彼らが受け取る金利は本来の金利よりも少ないものになってしまうからだ。

低金利は債務者にとって好ましいと言ったが、経済で最大の債務者とは多くの場合政府である。だから、本当はインフレなど国民にとってはまったく好ましいものではない(日本人は実際にインフレになってそれに気づき始めた)にもかかわらず、政治家が一様に「インフレ政策」と言いながらインフレを目指してきたのは当然のことだろう。

ダリオ氏は次のように続けている。

ここまで言えば、読者には金利がどう作用し、これまでどう作用してきたのか、例えば中央銀行が何故紙幣印刷や量的緩和によってそれほど低い金利(ほぼゼロ)やマイナス金利などを引き起こしてきたのかが分かり始めているのではないか。

結論

ダリオ氏は、日本人はインフレ政策による低金利と円安によって政府から多額の資金を吸い取られてきたと主張している。

インフレ政策、つまり人工的な低金利政策とは、預金者が本来得るはずだった金利収入を取り上げて借金まみれの政府に移し替える政策である。

それが長年行われ、日本人が支持してきた日銀の量的緩和の意味である。大経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏が『貨幣発行自由化論』で次のように述べていたことを思い出したい。

一般的な理解が不足しているために、紙幣発行の独占者による過剰発行という犯罪はいまだ許容されているだけではなく称賛さえされている。

ハイエク氏は、インフレを引き起こすインフレ政策を、政治家が利己的な目的のために預金者を犠牲にする政策として批判していた。

インフレが起こるまで、誰もハイエク氏の議論に耳を貸さなかった。それがコロナ後にようやく変わりつつある。インフレ政策がインフレを引き起こすという衝撃の事実が事前に分かっていれば良かったのだが。


貨幣発行自由化論