引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者レイ・ダリオ氏の、Bloombergによるインタビューである。
今回はアメリカの財政赤字の問題とドルの見通しについて語っている部分を紹介したい。
米国債の下落と金融政策
引き続きアメリカの債務問題である。ダリオ氏は前回の記事で、コロナ後の金利上昇により米国債に多額の利払いが発生し、その支払いのために大量の米国債が発行されようとしており、買い手が十分にいないため米国債が下落の危機にあると主張していた。
国債の価格が下落すれば金利は上がる。金利が上がれば、株価など他の資産価格にも影響を与えるだろう。
今回の記事では、国債の下落がドルの価値にどういう影響を及ぼすかについての部分を紹介する。ダリオ氏は次のように述べている。
国債の買い手が足りない場合、中央銀行と政府が何をするかと言えば、中央銀行に介入させて需要を補うことになる。つまり中央銀行が紙幣を印刷し、それで国債を買うということだ。そのことがあらゆる結果を生む。
それはつまり量的緩和の再開である。
アメリカの量的緩和再開
どのような道筋でそうなるのだろうか? アメリカはコロナ後に利上げをしてようやくインフレを抑えたばかりである。そこから1%の利下げは行なったが、量的緩和をするという話は出ていない。
ダリオ氏は、2025年の金融市場が大混乱になることを予想している。
国債の価格下落で金利が上昇し、それが金融市場全体と実体経済に影響を及ぼすという理屈である。
それはこれまで金融緩和で株価や国債を買い支えてきた総決算である。そのまま国債を下落させ、株価下落と景気後退という当然のツケを受け入れる選択肢もあるはずだが、米国政府はそうせず、中央銀行に国債の買い支えをさせると予想している。
だが量的緩和には副作用がある。ダリオ氏は次のように続けている。
2020年や2021年に政府が現金給付をするために借金をし、中央銀行が紙幣印刷して国債を買った時と同じだ。お金の価値が毀損され、インフレが起きる。
量的緩和は、それ自体ではインフレを引き起こさなかった。だが量的緩和による低金利と政府の大規模な財政出動が組み合わさったとき、遂に世界規模のインフレが発生した。その辺りの経緯は以下の記事を参考にしてもらいたい。
ダリオ氏は今回の量的緩和再開で、インフレが再発すると予想している。
遂に起こるドルからの資金逃避
これまでの量的緩和は、低金利を実現するために行われてきた。だがダリオ氏の予想するこれからの量的緩和は、下落の止まらない米国債を買い支えるためのものである。
そうなれば、中央銀行以外の米国債の買い手はどう思うか。ダリオ氏は次のように説明している。
36兆ドルある米国債の保有者が、米国債も日本のようにマネタイズされるのではないかと恐れ始める。
日本国債を保有することは酷い投資だ。国債の価格自体はそれほど下がっていないが、金利はアメリカなど他の国より3%低く抑えられ、為替レートは毎年3.5%下落している。つまり保有者はもう何年もの間、毎年6.5%を失い続けている。
アメリカもそうなる可能性がある。そこから更にインフレという価値減少が来る。
ダリオ氏は以前より、日本円の保有者はインフレ政策による人為的な低金利と為替レートの大幅下落によって多額の資金を奪われていると主張している。
低金利政策がなければ日本国民の預金には毎年金利が付いていたはずなのである。更にアベノミクス以後、日本円の価値はドルに比べてほぼ半分に下落している。日本国民は、それは自分が失ったお金だということを理解しているのだろうか。
そしてドルも下落する
だが問題は、そのドルでさえインフレで大きく価値を減らしているということである。コロナ後の現金給付によってドルは一時9%ものインフレになったが、それはつまりドルの価値がそれだけ下がったということである。
以下の記事で説明したように、インフレとはものの価値が上がることではない。紙幣の価値が下がることである。
だから日本円はドルに比べて半分の価値になったが、そのドルも現金給付によって大幅に価値を下げられている。
だからドルを買って、日本円に比べて値段が上がったと言って喜んでいる場合ではないのである。ダリオ氏は次のように続けている。
多くの人は通貨が他の通貨と比べてどれだけ下がるかに注意を払い過ぎる。だがこういう状況下では、多くの国で同じ問題が生じている。
だからゴールドなどの資産に対してこれらの通貨すべてが下落するということが起きる。そういったことに注意を払うべきだ。
価値を保っているのはゴールドなどの資産である。ゴールドは、紙幣に不信感を抱いた人々の買いによって、価値を保つどころか大幅に上昇している。
この紙幣からの逃避は、ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想していたことである。彼はこの本に次のように書いている。
1700年以来存在したおよそ750の通貨のうち、現代まで生き残っているのはそのたった20%ほどで、しかもそのすべては価値を下落させられている。
ダリオ氏はこの本で過去の覇権国家や基軸通貨の研究をしているが、紙幣の価値が長期的に下落することは単なる歴史的事実である。
だがダリオ氏の予想によれば、その転換点は2025年かもしれない。遂に基軸通貨の下落が始まろうとしている。
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世界秩序の変化に対処するための原則