引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewaterのレイ・ダリオ氏のMoonshots with Peter Diamandisによるインタビューである。
今回はダリオ氏が株価が超長期的な推移について語っている部分を紹介したい。株式に長期投資している人には必見の内容である。
覇権国家のサイクル
ダリオ氏は著書『世界秩序の変化に対処するための原則』と、もうすぐ出版する新著『国家はどのようにして一文無しになるのか?』(仮訳)において、国家が成長して大国になり、そこからインフレと債務で徐々に衰退してゆくプロセスについて説明している。
過去には大英帝国やオランダ海上帝国がその長期サイクルを1周して衰退した。
どんな大国でも永遠に覇権国家でいることは出来ず、覇権国家の寿命は100年程度である。だからダリオ氏は次はアメリカの番だと考えている。
サイクルの始まり
このアメリカのサイクルは、第2次世界大戦の終わりとともに始まった。その時経済はどういう状況だったか。ダリオ氏は次のように述べている。
戦争の後、債券はデフォルトして帳消しになり、例えばわたしの両親は負債もなければ資産もなかった。そこからサイクルが始まる。
ものがなかった時代の人々の美徳は節約と貯金である。今の人々のように株式や債券のことなど考えたこともない。
ダリオ氏によれば、サイクルの終わりには酷い経済状態が来るのが普通である。経済状態が悪くなり、社会が混乱するから、暴力的な方法によって体制がひっくり返るのである。
それが戦争である。第2次世界大戦の直前には1929年の世界恐慌があった。株価は紙くずになり、長年回復することはなかった。
だから戦後の人は節約と貯蓄の人なのであり、株式を買おうなどとは夢にも思わなかった。
株式を買うタイミング
だがダリオ氏によれば、それこそが株式を買うべきタイミングなのである。何故か。ダリオ氏は次のように説明している。
株式の益利回りは債券の利回りの倍だった。配当だけでも十分な収入になる。だが誰もが株価の下落を心配していた。
世界恐慌のあとで誰が株式を買おうと思うだろうか。だがそういう瞬間こそが株式を買う時なのである。
株式の益回りと債券の利回りを比べれば、長期的にはそこが買い時だということが分かる。ファンダメンタルズは短期的なタイミングを一切示さないが、長期投資をする人は割安かどうかを見るべきである。
繁栄から衰退へ
戦争のあと、株式は割安だった。だが誰も買わなかった。
それがサイクルの初期の状態である。しかしそこから株価は上がる。ダリオ氏は次のように述べている。
そこから状況は変わる。株価は上がり、人々は強気になる。
人々は株価が上がって始めて株式に興味を持ち始める。本当は上がる前に興味を持たなければならないのにである。経済学者ラリー・サマーズ氏は次のように言っていた。
金融市場で投資家が犯す大きな間違いのほとんどは、昨日やっておくべきことを今日やることによって起きる。
株価は上がるが、国家が大国になるにつれて負債が増える。紙幣を印刷してもインフレにならなければ良いなどという話が出てくる。そしてインフレになる。
人々はコロナ後のインフレで驚いたかもしれないが、歴史研究をしているダリオ氏からすれば紙幣印刷でインフレになるのは当たり前の話である。
ダリオ氏は次のように続ける。
負債は増え、金利は上がる。金融引き締めが経済にブレーキをかける。そしてバブルがはじける。
仮に中央銀行は引き締めをやっているつもりはなくとも、負債の増加とインフレ懸念によって金利が自然に上がってゆく。今のアメリカの状況である。
だがインフレが始まってしまえば中央銀行は以前のような緩和ができない。金利が急騰して中央銀行が緩和できない状況になったとき、それが株式の長期サイクルの終わりである。
そして世界経済は1929年のような世界恐慌の状況を再経験し、株価は長期間低迷する。そしてまた新しいサイクルが始まる。
結論
ダリオ氏は、株式の利回りが国債の金利よりも大幅にお買い得だった事実を挙げ、長期サイクルの初期にこそ株式を買うべきだと言っている。
逆に今の状況はどうか。デイヴィッド・ローゼンバーグ氏が、米国債と米国株の利回りはほぼ同じだとして、何故この状況で米国株を買うのかと指摘していた。国債を買うだけで同じリターンが得られる。
バリュエーションは短期的なタイミングを示さないが、長期的なパフォーマンスを見る上では重要である。次のバブル崩壊まで米国株を持ち続けるという話ならば良いのだが、日本には米国株を長期保有しようとしている人が大勢いるだろう。
彼らの理屈は、米国株は過去何十年も上がってきたから買うべきだというものである。だが過去何十年も上がってきたことは、これからも上がることを意味するのではなく、それだけサイクルの終わりに近づいたことを意味する。
皮肉なことに、彼らの自信はサイクルの終わりに近付けば近づくほど高まってゆく。株高が長く続いていることが彼らの強気の根拠だからである。
だから株価のサイクルの終わりは、彼らの自信が最高潮に高まった時に終わる。
ダリオ氏は次のようにコメントしている。
人々が先行きに自信を持っているのは赤信号だ。
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世界秩序の変化に対処するための原則