世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がMoonshots with Peter Diamondisのインタビューで、戦争が起きる原因について語っている。
ダリオ氏と歴史研究
ダリオ氏は投資家である。しかも歴史研究をする投資家である。ダリオ氏はコロナ後に、歴史上の大国がインフレと債務膨張によって衰退していったプロセスを分析した著書『世界秩序の変化に対処するための原則』を発表している。
なぜ世界最高峰のヘッジファンドマネージャーであるダリオ氏が、わざわざ歴史の研究をしたのか。ダリオ氏はその意図を次のように説明している。
わたしはグローバルマクロ戦略の投資家で、この仕事をもう50年以上やっている。
わたしがその経験から学んだことは、何か驚くべき出来事を経験したとき、それがわたしの生きている間にこれまで起こったことがないことだとしても、長い歴史の中では起こったことがあるということだ。
例えばコロナ後のインフレもそうである。コロナ禍で先進国が巨額の現金給付を行い、それが世界的なインフレに繋がった。
筆者やダリオ氏などが2020年の段階でインフレを警告していた一方で、人々はまさかインフレになるなどと夢にも思っていなかった。
人々がインフレに気付いたのは2022年になってからだった。
歴史研究から学べること
ダリオ氏はまさにこの現金給付をきっかけに『世界秩序の変化に対処するための原則』の執筆を決めた。紙幣印刷でインフレになることは、歴史を知る人間からすれば、よくあることだからである。
ダリオ氏の著書には、過去の大国が紙幣印刷によってインフレを引き起こした例などいくらでも書かれている。歴史を知っていれば、人々は紙幣印刷などしなかったかもしれない。
だが多くの人々は金融史の勉強などしない。そして彼らの人生の中でインフレはこれまで起こったことがない。
だから「人類は学ばない」のである。人類は何千年も生きているが、個人は数十年しか生きておらず、多くの人は歴史を学ばないからである。投資家ジム・ロジャーズ氏の次の皮肉が思い出される。
歴史から学べることは、人は歴史から学ばないということだ。
国家の衰退と戦争
さて、ここからが今日の本題なのだが、ダリオ氏は『世界秩序の変化に対処するための原則』において、国家がインフレや債務問題で衰退してゆくフェイズと、世界的な戦争が起きるフェイズが重なると述べている。
ダリオ氏は今回のインタビューでも次のように言っている。
国家が豊かになってから再び貧乏になるまでのサイクルと、戦争や内乱のサイクルは、常に同期するわけではないが、多くの場合同じタイミングで起きる。
第2次世界大戦では、多くの国で国内の体制が倒れ、新たな体制が誕生した。
第2次世界大戦は、ダリオ氏の解説では大英帝国の覇権の終わりに当たる。覇権国家が絶対強者として君臨している間は、覇権国家が多少横暴を働いても他の国は耐えているが、覇権国家の体力がなくなってきたことを認識すると、本格的な抵抗を始めるだろう。
それが戦争に繋がるのである。現代では、例えばアメリカのアフガニスタン撤退などがそういうイベントにあたる。
結論
ダリオ氏は次のように纏めている。
こうした戦争の混乱は大抵人間の生涯では1回しか起こらない。それが人間が戦争などについて決して学ばない理由だ。
何故人類は学ばないのか? 個々人はそれを自分で一度も経験したことがないからだ。
ダリオ氏などの機関投資家にとって、2025年のテーマはアメリカの債務問題である。
そしてアメリカの財政が危うくなることは、アメリカの軍事力に直接の影響を及ぼす。それは財務長官に指名されたヘッジファンドマネージャーのスコット・ベッセント氏も認識している。
ダリオ氏がコロナ直後に『世界秩序の変化に対処するための原則』に書いたことが、現実のものとなりつつある。トランプ政権はそれを乗り越えられるだろうか。
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世界秩序の変化に対処するための原則