1987年のブラックマンデーを予想したことで有名なポール・チューダー・ジョーンズ氏が、CNBCのインタビューで2025年の金融市場について語っている。
第2次トランプ政権
1月にトランプ氏が正式に大統領となり、第2次トランプ政権が始まっている。2017年からのトランプ相場では、トランプ大統領の法人減税やインフラ投資によって親ビジネス的な環境が生み出されたと言って良いだろう。
株価も大いに上がった。今回も同じ状況になるのだろうか。ジョーンズ氏は次のように言っている。
1つ言いたいのは、今の状況は前回のトランプ政権とはまったく、完全に違う環境だということだ。
なぜそう言えるのか。ジョーンズ氏がまず挙げているのは米国債の状況である。
ジョーンズ氏は次のように続けている。
2017年、国債の発行によって投資家は1.2兆ドル分の国債を消化するように求められていた。今年はその数字は2.7兆ドルになっている。史上最多だ。
これは今年に入って多くの機関投資家が指摘している米国債の大量発行の問題である。
コロナ以後、アメリカは巨額の財政赤字を垂れ流しており、その赤字は国債発行で賄われる。だが国債を発行するためには投資家に国債を買ってもらわなければならない。
だが、ジョーンズ氏によれば投資家が消化しなければならない国債の量は前トランプ政権の時の倍になっている。投資家はそれを消化しきれていない。だから利下げにもかかわらず、国債の金利が上がっているのである。
貧乏になってゆくアメリカ
アメリカの問題はそれだけではない。ジョーンズ氏は第2の問題として、対外純資産の問題を挙げている。
対外純資産とは、アメリカ人が海外に持っている資産から、外国人が保有するアメリカの資産(米国株や米国債など)を差し引いた数字である。
アメリカではこの対外純資産の数字は長らくマイナスになっているが、このマイナスの幅はどんどん広がっている。
ジョーンズ氏は次のように述べている。
2017年、外国人は差し引きで8兆ドルの資産をアメリカに対して持っていた。アメリカ人が持つ海外資産より、外国人がアメリカに対して持つ資産の方が多かったということだ。それはGDPの40%に相当した。
今ではその数字は23兆ドルになっている。外国人はアメリカの株式や債券や不動産を、アメリカ人が外国に持つ資産よりも23兆ドル多く持っている。
それはGDPの80%分だ。つまり2倍になっている。
対外純資産(GDP比)のグラフは次のようになっている。

これはアメリカ人の資産が相対的に減っていることの他に、外国人がまだ米国債や米国株を買っていることを意味する。
だから短期的に見ればこの下落は良いことなのかもしれない。だがそれは長期的には良いことではない。それは同時に、米国企業や米国債が外国人に所有されつつあることを意味するからである。
筆者はこれこそがレイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で解説した、覇権国家の衰退の過程を表す数字ではないかと思う。短期的にはアメリカは外国人の投資により潤うが、長期的には自分の資産がなくなり自分の国が他国に所有される状況を作っているのである。
米国株は30%以上割高
ジョーンズ氏が最後に述べているのは米国株の状況である。ジョーンズ氏は前トランプ政権の時と比較して、米国株が割高になっていることを次のように説明している。
株式市場では、2017年の1月には株価収益率の平均は19倍くらいだった。今では25倍だ。
30%上昇しているので、株価が仮に30%下落してもまだ少し割高だということになる。
株価収益率は株価と1株当たり利益を比べる数字であり、株価収益率が同じならば基本的には同じバリュエーションだということになる。
だが米国株の株価収益率は30%上昇している。これは米国株が1株当たり利益に比べて30%割高になったということを意味する。
それを正当化する要因は何かあるだろうか。むしろ逆に、株価にとって不利な状況なら思い浮かべることができる。コロナ後に金利が大幅に上がったことである。
高金利は株価にとってマイナスである。国債の金利が高ければ、投資家はリスクのある株式を買わなくとも、国債を満期まで保有するだけで高い金利収入を得ることができる。
だが金利はゼロから4%も上がった。それでデイヴィッド・ローゼンバーグ氏などは国債と株式の評価がほとんど同じになっているとして、株式は無リスク資産かと皮肉を言っていた。
株価収益率の上昇と金利の上昇は、どちらも株価にとっては不利な条件である。それでも米国株は上がっている。それはいつまで続くのか。
結論
ジョーンズ氏は今回のトランプ政権の状況について次のように纏めている。
今回のトランプ政権では、トランプ氏がトランプ氏らしく振る舞うとしても、前政権時のように上手く行くかどうかは分からない。今の状況では少しの失敗も許されないからだ。
トランプ氏はいまやわれわれの大統領だ。トランプ氏があらゆる局面で正しい決断をすることを祈っているが、アメリカ経済はマクロの観点から見て危険な状況に置かれている。
これほど多くのことが互いに関連し影響しあって、崩壊の瀬戸際にある状況は見たことがない。
今の主要な金融市場の状況を壊さないままこれらの問題に対処できるのはかなりの達人だけだろう。
要するにジョーンズ氏は、トランプ氏がよほど上手くやらなければ、2025年に何かが壊れる可能性が高いと見ているのだろう。それはダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想した、アメリカの衰退の始まりなのだろうか。
他の機関投資家の意見も参考にしてもらいたい。

世界秩序の変化に対処するための原則