引き続き、アメリカの元財務長官であり経済学者のラリー・サマーズ氏のBloombergによるインタビューである。
今回はChatGPTを開発しているOpenAIの取締役でもあるサマーズ氏が、中国のAIであるDeepSeekの台頭について語っている部分を紹介したい。
DeepSeekショック
中国初のAIであるDeepSeekがChatGPTに匹敵する性能をより安価なコストで実現したというニュースが広まって以来、株式市場ではアメリカのAI関連銘柄を中心に株価が一時大きく下落した。各銘柄へのコメントは以下の記事で行なっている。
前回の記事でサマーズ氏は、DeepSeekショックで狼狽えるのは投資家にとって大きな間違いだと主張していた。前回の記事は主に投資家の心構えの話だった。
だがAIそのものについて、まさにChatGPTを開発するOpenAIの取締役でもあるサマーズ氏はどう考えているのか。
サマーズ氏はDeepSeekについて淡々と次のように述べている。
中国企業がイノベーションと摸倣の両方に優れているということは前から分かっていた話だ。
更に言えば、DeepSeekの発表は株価下落よりも1週間も前だったではないかとレイ・ダリオ氏も指摘していた。何を今更という話なのである。
また、サマーズ氏はDeepSeekの回答の質についても次のような微妙なコメントをしている。
例えば良いスーツを安く作ることと、最高のスーツを作ることは別の話だ。費用と質は簡単に交換できるものではない。
サマーズ氏の議論を簡単に言えば、例えばマクドナルドが材料にお金を掛けたとしても、いきなり1人5万円のレストランになれたりはしないということだろう。それは別の業種であり、サマーズ氏はどうもDeepSeekがChatGPTほどのクオリティには達していないと言いたいようだ。
DeepSeekはAI業界にマイナスか
それはともかく、DeepSeekの登場によってAI業界の競争が激しくなることは確かだろう。それはAI全体にとって悪いことなのか? サマーズ氏は次のように言っている。
このことによってAIには大量のデータセンターなど要らないという議論も出てきている。どんなことも起こり得るが、歴史を振り返れば何かのコストが下がった時、人々はそれをもっと求めるようになり、需要は減るどころか増加する。
このことは資源経済学ではジェボンズのパラドックスとして知られている。
筆者もサマーズ氏の意見に同意する。AI業界の競争が激しくなることは、AI全体にとってまったく悪いことではない。ユーザにとってはより安価にサービスが利用できるようになり、競争が激しい分サービスの質も上がるだろう。
DeepSeekが出てきたからAI銘柄は終わりだなどと言うのは、Androidが出てきた時にiPhoneは終わったと言うようなものだ。そうした馬鹿げた議論に耳を貸している暇があれば、むしろ米国株全体のバリュエーションを心配する方が有意義だろう。
NVIDIAについても、もう少し下がらなければ筆者は買う気はないが、それでも米国株全体よりNVIDIAのバリュエーションを心配する意見はまったく意味を成していないと思う。
個別のAI関連銘柄については以下の記事を参考にしてもらいたい。