ジム・ロジャーズ氏: 移民は優秀だ、外国人はいつも標的にされる

ジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを立ち上げたことで知られる著名投資家のジム・ロジャーズ氏がBloombergの番組(原文英語)で様々な話題について議論している。

米国市場や中国、ロシアなどについても話しているが、「世界最悪の短期トレーダー」を自称するロジャーズ氏は長期投資の専門であるため、これまでに紹介している彼の相場観から変わった部分はさほどない。

しかしここで取り上げたいのはロジャーズ氏が移民政策についてかなり熱く語っている箇所である。

移民問題はヨーロッパでは完全な地獄絵図となっている。イギリスがこの問題を受けてEUを離脱し、フランスやイタリアも続く可能性があることもあり、西洋の政治家はようやく移民をどうコントロールするするかという議論をしている。

Bloombergの番組ではロジャーズ氏のほかにオックスフォード大学のポール・コリアー教授が議論に参加しており、移民問題の解決策として、コリアー教授は移民をヨーロッパに呼んで仕事を与え、その対価としてテロや文化的軋轢などの混乱を招くのではなく、仕事の方をトルコなど移民の出身国に送ってしまえばよいのだという提案をしている。

ロジャーズ氏はこの提案を評価し、「そうすれば多くの人がお金を節約できるだろう、誰かが移民を呼び寄せて多くの金を払っているのとは大違いだ」と述べている。

この提案ならば、少なくともテロや治安、文化の違いといった問題は消え、移民問題は、先進国から発展途上国への雇用流出を許容するべきかというトランプ大統領的な経済問題に変化する。

しかし議論があまりに移民を邪魔者として扱うことを前提に進むので、自分自身がシンガポールに移住しているロジャーズ氏はいたたまれなくなり、熱くなりながら移民の擁護を始めた。

通常、移民はかなり優秀だ。荷物を纏めて自分の国を離れようとする人々は、活動的で、頭がよく、野心家だ。アメリカはそうやって生まれた。アメリカは移民を受け入れるために金を払いさえした。彼らの頭脳が欲しかったからだ。わたしもシンガポール在住だ。シンガポールに移住したのだ。

強く訴えるようなロジャーズ氏の弁に対して、イギリス人のコリアー教授はイギリス人らしい礼儀正しさで反論することなく、無言で返している。イギリス人は間違いなく移民に対してそうしたイメージを持っていないからである。

イギリスとは自国内でさえ知的階級と労働者階級をはっきり区別し、しかし差別することなく、価値観や常識の異なる人々同士は別々に分かれて暮らすのがお互い軋轢なく過ごすための秘訣だと知っている国である。ロジャーズ氏の非常にアメリカ的な価値観とは対照的なのである。

ロジャーズ氏はこう続ける。

ヨーロッパとアメリカにおける移民政策の大部分は上手く行っていない。管理されていないからだ。しかしアメリカは昔、金を払ってでも移民を受け入れようとした。シンガポールも同じことをした。誰が入ってくるのかをしっかり管理出来るならば、移民政策は問題なく繁栄への道となるはずだ。

歴史を通して外国人はいつも非難の的になってきた。肌の色が違う、同じ言語を喋らない、服装が違う、食べ物が違う、嫌な臭いがする、食べ物が臭う、等々。外国人を攻撃するのは簡単だ。政治家ももう何百年も外国人を攻撃してきたのだ。

優秀な移民を選別して受け入れることが出来れば、それは政治的、経済的、そして軍事的に大きなメリットになるということは間違いない。ユニクロやスターバックスのようなグローバル企業が移民の安い労働力を得られるようにすることが目的で行われている現在の移民政策とは別のものであり、それは日本でも少なくとも検討に値する移民政策ではある。例えば、第二次世界大戦の命運を決めた原子爆弾の開発には、フォン・ノイマンやボーアなど、アメリカに移住してきた科学者の多大な貢献があったのである。

一方で、そのメリットを考慮したとしても、衛生観念や社会常識などが国によって大きく異なるということは歴然たる事実である。この事実を単に理性的に指摘する人々さえグローバル企業に支配された大手メディアによってレイシスト呼ばわりされ、リベラルな人々による言論封殺が行われてきた結果がBrexitとトランプ大統領である。ドイツのメルケル首相などは未だに人々の口を封じる話をしている。流石は第二次世界大戦でヨーロッパ中の顰蹙を買った国である。

常識の違いは、先進国に対する中東やアフリカという比較だけの話ではなく、日本とアメリカでさえ社会常識や衛生観念は大きく違う。国際的な事情を知っている人間には移民政策の無理が当然のように分かるのだが、ヨーロッパやアメリカでそれが分からない人々が盲目的に移民政策を支持している。それが移民問題の実情なのである。