DeepSeekショックで暴落したAI銘柄は買い

中国で開発されたAI、DeepSeekの登場によりNVIDIAを始めとするAI銘柄の株価が軒並み急落となり、S&P 500も大きく下落した。だがこの株価下落には不合理な点がいくつもあるので、状況を解説したい。

DeepSeekショック

まずDeepSeekは中国の梁文峰氏によって開発されたAIであり、1月20日に新バージョンが公開された。この新バージョンがOpenAIのChatGPTに匹敵する精度であり、しかもChatGPTより大幅に安いとして、アメリカのAI独占状態に待ったの声がかかったのである。

AIビジネスのアメリカ独占に中国が食い込んだとすれば、これまでAI銘柄主導で上昇してきた米国株が下落するのも無理はない。OpenAIは非上場だが、特にOpenAIにとっては痛手だろう。

だがいくつかの銘柄の株価下落には再考の余地がある。まず考えるべきは、AIの情報処理に使われるGPUを製造するNVIDIAの株価が下がっていることである。

NVIDIAの株価下落を解説する

NVIDIAの株価下落の理屈はこうである。アメリカによる中国への輸出規制により、DeepSeekはNVIDIAの高性能GPUであるH100を使うことができず、中国向けに性能を落とされた廉価版のH800を使用しているが、それでもDeepSeekの性能はChatGPTに並んでいるため、NVIDIAの高性能チップはAI開発には不要だという理屈である。

だが考えなければならない点がいくつかある。まず、世界経済フォーラム(通称ダボス会議)でScale AIのCEOであるアレクサンダー・ワン氏が、DeepSeekは輸出規制を迂回してNVIDIAのH100チップを保有していると発言している。

今やトランプ政権の一員であるイーロン・マスク氏も、そのインタビューにツイートで「明らかにそうだ」と返信している。

また、これは半分冗談だが、DeepSeek自身にH100を使っているかと尋ねたところ、あっさり肯定したとの報告がSNS上で流れている。

AIはネット上の情報を再構成しているだけなので、DeepSeek自身の証言は証拠にならないのだが、考えてほしいのは以下のことである。

まず、筆者の意見では、廉価版のチップだけではChatGPTと並ぶ性能のAIを作ることはかなり難しい。その可能性と、DeepSeekが輸出規制を迂回した可能性、どちらが高いと考えるかである。

次に、仮に廉価版が使われていたとしても、それもNVIDIAのチップであることには変わりはない。DeepSeekもNVIDIAの顧客なのである。

そしてコンピュータ部品の常識から言って、廉価版が高性能であるからといって最新版の価値がなくなるということは有り得ない。初代iPhoneがあるから今のiPhoneは不要だと言う人がどれだけ居るだろうか。

よって、DeepSeekの話でNVIDIAが大きなダメージを負うと考えるのは誤りである。むしろこの話はNVIDIAが国境を超えて業界を独占し続けていることの証明である。

Lumentumの下落

さて、こういうショックで大手の株式銘柄が急落している場合、もっとマイナーな銘柄は更に大きく下落するものである。

例えば筆者がNVIDIAで利益を上げた後乗り換えた銘柄であるLumentumは、AI向けのデータセンターなどで急遽必要となっている高性能な光トランシーバーを製造する会社だが、この株価も大きく下がった。

NVIDIAと違って過去半年で大きく上がっているため、それでも去年11月の水準を下回っていないが、DeepSeekショックによる下げ幅はNVIDIAより大きい。

だがLumentumの下落はNVIDIAの下落よりも更に理屈に合わない。何故ならば、NVIDIAのチップとは違い、光トランシーバーは輸出規制の対象となっていない。AIの開発がアメリカ以外でも活発になることは、光トランシーバーの製造で世界2位のLumentumにとってむしろプラスのはずである。

少なくともこの話でLumentumの損になるようなことは何もない。それでも株価は下がる。株式市場とはそういうものである。

ウラン採掘企業の下落

また、DeepSeekショックで下がった他のAI関連銘柄は、エネルギー関連企業である。

AIは莫大なエネルギーを必要とするため、いくつかのエネルギー企業はAIに関連して上昇していた。例えばスリーマイル島原子力発電所を保有するConstellation Energyは、MicrosoftのAI向けに電力を供給する契約を結んで株価が上昇していた。

Constellation Energyの株価も下がっているのだが、今回取り上げたいのはウラン採掘企業を集めたETFの価格がDeepSeekショックで下がっていることである。

これこそDeepSeekとは何の関係もない。ウランは、ロシア関連の輸出規制などはあるものの、基本的には世界的に取引されている鉱物である。中国とアメリカの両方でAI開発が盛んになり、エネルギーが必要となるならば、それはウランにとってはプラスではないのか。

結論

ということで、DeepSeekショックについて株価の動きの不合理な部分を解説してみた。

米国株のバリュエーションは高い。それは間違いない。それに関しては以下の記事などを参考にしてもらいたい。

だがこのDeepSeekの話がこれらの銘柄にどれだけ悪影響を及ぼすかについては、上で述べた通りである。

筆者は引き続き、株式市場全体については警戒しながら、有望な個別株への投資を続けてゆく。スタンレー・ドラッケンミラー氏と同じスタンスである。