DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏が毎年好例の自社開催の円卓会議で2025年の米国経済について語っている。
2025年のアメリカ経済
今年一番大きな問題は間違いなく財政赤字と米国債の利払いである。これについてはもういくつも記事を書いている。
だが今回ガンドラック氏が円卓会議で指摘している問題はそれに勝るとも劣らない。
まずガンドラック氏はアメリカのインフレ率について次のように述べている。
恐らくアメリカのインフレ率は夢の2%には下がって行かない。パウエル議長もそう考えているように見える。
パウエル議長はここ数ヶ月、物価と雇用の安定という2つの目標が互いに相反しつつあると感じているのではないか。
著名投資家の中でもデフレ寄りだったガンドラック氏が、遂にインフレ率は低下しないと言っている。ガンドラック氏のインフレに関する意見は、トランプ政権になって変わったように見える。
アメリカのインフレ率は次のように推移している。
インフレ率のチャートはここ3ヶ月ほど良くない動きをしている。現在2.9%である。
一方で、米国経済に関するもう1つの重要指標である失業率について、ガンドラック氏は次のように述べている。
失業率は上がっている。それほど急上昇ではないが、36ヶ月移動平均線をほとんど上回っていて、景気後退への黄色信号を灯したままだ。
失業率のチャートは次のように推移している。
現在の失業率は4.1%である。
インフレ率と失業率
さて、ガンドラック氏はこの2つのグラフを見て次のように分析している。
パウエル議長は誰も引き受けたくないような立場に立たされている。パウエル氏には1つのツールしかないのだが、そのツールで達成しなければならない2つの目標は互いに反目し合っている。
Fedに出来ることは色々あるが、纏めると緩和をするのか引き締めをするのかどちらかである。
その観点から上の2つのグラフを見ると、インフレ率は2%を長らく上回ったまま、ガンドラック氏の分析ではこのまま2%に落ちてゆくことはない。
一方で失業率は、ここ数ヶ月はやや落ち着いているものの、トレンドとしては長らく上昇のままである。
ガンドラック氏も言及しているが、失業率が上がり続ける状況は、金融業界では景気後退のサインとして知られる。
スタグフレーションの兆候
要するにこういうことである。インフレ抑制を取って高金利政策を続ければ失業率が悪化し、失業率を優先して緩和をすればインフレ率が3%を超えて上がってゆく。
インフレは過熱側で、失業率は悪化側である。つまりはスタグフレーションの気配がし始めているとガンドラック氏は言いたいのである。
この状況をガンドラック氏は次のように表現している。
パウエル議長は片足をカヌーに、もう片足を船着き場に載せているようなものだ。カヌーが出発すれば水に濡れるしかない。
これはバイデン前大統領がガザとイスラエル両方の味方をしようとしていた時に、ガンドラック氏が以下の記事でそれを揶揄した表現と同じである。
結論
実際には、パウエル議長はカヌーか船着き場かどちらかを選ばなければならない。
Fedはどちらを選ぶのか。ガンドラック氏は次のように述べている。
どちらかの目標が譲るしかない。譲れないのは、恐らくインフレの方ではないだろう。2.5%や2.75%のインフレはFedにとってそこまで問題ではない。だが失業率は更に上がるかもしれない。
そうなればどうする? インフレ率が2.5%か2.75%か3%だとしても、失業率が上昇するならばFedはどうするのか。
それが問題だ。
ガンドラック氏は、パウエル議長が多少インフレを犠牲にしてでも失業率を抑えるために緩和すると見ている。
これでややデフレ寄りだったガンドラック氏もインフレの側についたことになる。2025年の機関投資家の予想はインフレ側に寄っている。