レイ・ダリオ氏: アメリカが破綻しそうかどうか調べる方法

世界最大のヘッジファンドBridgewaterのレイ・ダリオ氏が自身のブログで新著『国家はどのようにして一文無しになるのか?』(仮訳)の内容を紹介している。

国家の寿命

これはダリオ氏の前著『世界秩序の変化に対処するための原則』でもテーマになっていたことだが、国家には繁栄して衰退するまでのサイクルがある。

前著では、アメリカの前に覇権国家だった大英帝国やオランダ海上帝国などが成長して衰退するまでの段階を詳しく説明していた。

今回の著書でもダリオ氏は次のように言っている。

長期の債務サイクルの進行は、病気や寿命までの各段階の進行のようなもので、それぞれの段階に異なる兆候が見られる。

だから兆候を見ればサイクルが何処まで進行し、次にどうなりそうかが大体分かる。

人間と同じように国家にも寿命があるとダリオ氏は言っているのである。そして、歴史上すべての覇権国家が繁栄して衰退していったように、今の覇権国家であるアメリカもそこからは逃れられない。

国家の段階

だが問題は、今のアメリカは繁栄から衰退の段階のうち何処にいるのかということである。アメリカは衰退の段階に近いのか、遠いのか。

人間なら、まず子供から大人へと成長し、徐々に老いの兆候が見られ、白髪が生え、徐々に病気も多くなり、認知機能や身体機能が衰え、やがて死んでゆく。

ダリオ氏によれば、国家も同じである。成長する国家の最初の段階についてダリオ氏は次のように述べている。

健全な財務の段階: 債務の水準は低く、金融政策は健全で、国の競争力は高く、債務の増加は生産性の増加に繋がっている。

最初は民間で健全な借り入れが行われ、借金は返済される。だが徐々に民間が借りすぎに陥り、損失をかかえ、返済に問題が生じる。

この債務の長期サイクルの初期段階では、通貨には現物資産の裏付けがある。

最初、国家には借金がない。経済は成長してゆき、債務は少しずつ増えてゆくがまだ問題になる規模ではない。

また、通貨にゴールドやシルバーなどの裏付けがある(金本位制・銀本位制)ことがこの段階の特徴である。それは段々変わって行かなければならないのだが。

債務膨張の段階

前著『世界秩序の変化に対処するための原則』にも書いてあることだが、債務の量は一番分かりやすい国家の寿命を計る指標である。

国家が歳を取るにつれて債務が段々増えてゆく。ダリオ氏は次の段階について次のように述べている。

債務バブルの段階: 債務と投資の伸びが収入では賄えないほどに増えてくる。

この段階ではお金はばら撒かれ、負債による経済成長とバブルが見られる。

「お金がばら撒かれている」というところがポイントである。政府は苦労して金鉱山まで行って、ゴールドを採掘して金貨をばら撒くわけではない。

政府はまず金貨のゴールドの含有量を薄め、金貨を多く作り出してそれを自由に使う。それでも駄目なら何の価値もない紙幣がお金として代用される。それが歴史上起きてきたことである。

政府は自分が自由に支出するために通貨の価値をどんどん下げてゆく。それは金貨でも紙幣でも変わらない。ダリオ氏が新著において強調している歴史的事実である。

だが、その問題は最初の何年かは表面化しない。アメリカが量的緩和を始めたのはリーマン・ショック後だが、インフレになったのはそこから緩和政策がエスカレートして現金給付に移行した時である。

問題が生じるまでは、誰もが紙幣印刷を喜んでいた。インフレを目指したインフレ政策がその名の通りインフレを引き起こすまで誰も何もおかしいと思わなかった。何の冗談なのか。ダリオ氏はその段階について次のように述べている。

市場も経済も上手く行っているように見え、誰もが更に良くなると信じていてるが、それは大量の借金によって生み出されており、富は何もないところから作り出されている。

ダリオ氏はコロナ後、口癖のように次のように言っていた。

われわれが消費をできるかどうかはわれわれが生産できるかどうかに掛かっているのであり、政府から送られてくる紙幣の量に掛かっているではない。

紙幣は食べられない。

債務バブルの崩壊

そして遂に最後の瞬間が来る。ダリオ氏は次のように述べている。

債務の縮小の段階: 痛みを伴う借金とその利払いの解消が、収入に見合った大きさに戻り、債務が持続可能な状態になるまで続く。

最終的に、ツケを払う瞬間が来る。緩和政策がインフレを引き起こし、インフレは金利の上昇を引き起こして、これまでゼロ金利だった大量の政府債務に利払いが発生する瞬間が来る。

実際、アメリカの国債の利払いはGDPの4%に達しようとしている。

借金を紙幣印刷で返そうとすればインフレになり、インフレを止めようとすれば金利が上がって借金が増える。どうしようもない袋小路に突っ込んだとき、国家の終わりが来る。大英帝国もオランダ海上帝国もそのように沈んで行ったのである。

結論

重要なのは、これがアメリカに関するダリオ氏の予想ではなく、これまでの覇権国家に起きたことの歴史分析だということである。過去の覇権国家がどうなったかは前著『世界秩序の変化に対処するための原則』で詳しく解説されている。

従ってこれは事実に過ぎない。その実際に起きた諸段階に照らし合わせてみると、アメリカは何処にあるのか。現金給付、インフレ、利払いの増加などを見れば、債務バブルの頂点から崩壊に差し掛かる辺りだと言えるだろう。

だからダリオ氏は『国家はどのようにして一文無しになるのか?』というタイトルで新著を書いているのである。そして同じことを心配している著名投資家は多い。


世界秩序の変化に対処するための原則