世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がLinkedInの自身のブログで新著を発表しているので内容を紹介したい。
ダリオ氏が新著発表
ダリオ氏と言えば、コロナ初期に先進国政府が現金給付を決めた時、多くの人々が現金給付の危険性を無視した中で、ダリオ氏は淡々とインフレ政策の研究を進め、歴史上の大国のほぼすべてが債務とインフレによって衰退していったという歴史的事実を著書『世界秩序の変化に対処するための原則』に纏めたことで有名である。
そしてその後世界はダリオ氏の予言通りインフレに見舞われたことは今や誰もが知っている。
そのダリオ氏が新著を発表している。その名も『国家はどのようにして一文無しになるのか?』(日本語版はまだなので筆者仮訳)である。
ダリオ氏は新著のテーマとして、以下の論題を挙げている。
政府債務の増加には限界はないのか?
政府債務の増加が止まらない場合、金利には何が起き、それはどういう結果に繋がるのか?
世界で使われる主要な通貨を持つ大国が財政破綻することはあるのか? あるとすれば、それはどのように起きるのか?
明らかに先進国の破綻を心配しているダリオ氏
新著のタイトルを読んで筆者は少し笑ってしまったのだが、ダリオ氏は明らかにアメリカや日本などの先進国の破綻を心配している。
インフレが起きる前にインフレをテーマにして本を書いたダリオ氏は、『世界秩序の変化に対処するための原則』では歴史上の例を交えて国家が大国へと成長してからインフレと債務で衰退してゆくまでの様子を解説していたが、今回は直球で破綻に焦点を合わせている。
つまりダリオ氏は、コロナ後のインフレと金利上昇によってその段階が近づいたと予想しているのだろう。
先進国は破綻しないのか?
ダリオ氏は次のように述べている。
一部の人々は政府債務の増加には限界はなく、その国の通貨が世界で使われている準備通貨である場合には特にそうだと信じている。
世界中で広く使われている準備通貨を持つ中央銀行は、いつでも紙幣を印刷して負債を払うことができると彼らは信じているからだ。
コロナ前には、インフレ政策には何の問題もないと主張する人々が、インフレ政策を公然と行う政党を支持していた。インフレ政策の目標であるインフレ自体が問題なのに何を言っているのかと筆者は思っていたが、今でもそう主張する人はいる。
だがダリオ氏のように、歴史を少しでも勉強した人には、現実はその逆だということが分かる。むしろ債務増加とインフレを引き起こして無事だった国などほぼ皆無なのである。
ダリオ氏は次のように続けている。
1700年以来存在した750の通貨および国債のうち、現在ではたった20%しか生き残っておらず、生き残っているものもそのすべてがわたしがこの新著で説明しているメカニズムによって大きく価値が毀損されている。
それは先進国であろうが発展途上国であろうが関係がない。そしてそれは過去の現象ですらない。何故ならば、例えばアルゼンチンは以前は1人当たりGDPが日本より高い先進国だったが、政治家によるインフレ政策と無節操な政府支出によってハイパーインフレに陥ったからである。
ダリオ氏のように、実際にこうした研究を少しでも始めてみると、逆に「先進国は破綻しない」という主張にほとんど根拠がないことが分かる。
だがダリオ氏によれば、国家が大国に育って債務を積み上げ、インフレと通貨安を引き起こして衰退してゆくまでのサイクルには100年ほどの時間がかかり、生きている人は誰もそれを経験したことがないため、それが起こらないと思い込むという。
ダリオ氏は次のように警告している。
莫大な政府債務が急増しているとき、これまでの事例をきちんと勉強せずに、今回はこれまでとは違うと想定するのは危険だ。
それは今生きている人が生まれて以来内戦や世界大戦が起きていないから、そういうものはもう二度と起きないと想定するようなものだ。
結論
戦争の研究は多くの人が何百年もやってきたから、戦争が二度と起こらないと想定する人はいないだろう。だが国家の成長と衰退のサイクルは一般の人にはまだほとんど知られていない。
ダリオ氏の新著は、アメリカや日本の現実がコロナ後に急激に衰退の段階に近づいたため、衰退のフェイズが具体的にどのようにして起きるのかに焦点を置いたものになる。
出版はもう少し先になるだろうが、ダリオ氏は内容をブログで紹介しているので引き続きそちらを報じてゆきたい。
増税とインフレと通貨安に苦しむ人にとっては必読の本になるだろう。前著『世界秩序の変化に対処するための原則』の続きということになるので、そちらをまだ読んでいない人は新著の出版までに読んでおくことをお勧めする。
世界秩序の変化に対処するための原則