Von Greyerzのエゴン・フォン・グライアーツ氏が自社の動画配信で年始から飛ばしている。コロナ後のインフレは十分に人々の生活を圧迫しているが、グライアーツ氏は政府が発表しているインフレ率の数字はそもそも正確ではなく、実際の状況はもっと酷いという。
政府債務とインフレ
コロナ後のインフレの原因は、中央銀行が紙幣を印刷し、それを政府が現金給付という形でばら撒いたことである。
政府が借金を増やし、それを中央銀行が紙幣印刷でまかなっているという状況である。
フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。
債務が爆発的に増加している。財政赤字はすべての国でどんどん増えてゆくだろう。だから債務も更に増える。そしてそれがインフレに繋がる。
そして人々は「ものの値段が上がっている」という。しかしそれは違う。フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。
インフレはものの価値が上がることではない。インフレは通貨の価値が下がることだ。
ここには大きな違いがある。政府はいつも「物価が上がっている」と言うが、実際には単にあなたが持っているドルなりユーロなりポンドなりの価値が下がっているだけだ。そしてその原因は、政府が継続的にあなたのお金の価値を破壊していることだ。
政府にお金がなくとも、中央銀行に紙幣印刷させればいくらでも支出を増やし、自分の票田を満足させることができる。
インフレの本当の姿
だが政府支出の結果はインフレである。現金給付を受け取った人にとっても大損だろうし、日本の住民税非課税世帯への給付金のように、現金給付を受け取らずにインフレか増税(どちらかしか選べない)だけ受け取る人にとってはもう最悪だろう。
また円安政策に至っては誰の得になったのか理解しがたい。輸出企業でさえ、受け取るドルの金額は同じであり、それを減価された日本円に換算した場合に数字が増えたように見えるだけである。減価された通貨で金額を計算してはいけないと筆者は何度も言っている。
こういう政治を続ければ最終的にどうなるかは、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領が説明してくれている。
アベノミクス後、日本円の為替レートは半分に下落している。それは明らかにアルゼンチンの状況への第一歩なのだが、多くの日本人は気付いていない。
だがフォン・グライアーツ氏によれば、今国民が認識しているインフレ、あるいは政府からインフレの状態はこうだと伝えられているインフレは、経済の本当の姿ではない。
フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。
インフレは2%や3%や4%などではない。ほとんどの国は現在インフレが2%程度かそれよりやや高いくらいだと言っているが、物価上昇が2%のわけがない。
何処へ行っても物価は10%も20%も上がっている。政府統計のインフレ率の数字は馬鹿げている。人々の批判から政府を守るために操作された数字だ。
だが買い物をしたり保険に入ったり旅行したりすれば誰でも分かる。そんな数字は実在しない。物価はもっと上がっている。
確かに、一時9%まで上がったアメリカのインフレ率はさておき、日本のCPI(消費者物価指数)のインフレ率が本当に正しい数字なのかということは筆者も考えていたことである。
読者はどう思うだろうか? 筆者の意見では、問題の本質は恐らくCPIの数字が正しいかどうかではない。政府がインフレによって国民の資産を勝手に減らしているかどうかを計測するためのインフレ率の数字を、まさにその政府自身に計測させていること自体に利益背反の問題があるわけである。泥棒に盗んだ内容を自己申告させるようなものである。
結論
だが紙幣の価値下落をどのように測ろうとも、通貨の価値が政治家によって長期的に切り下げられてゆくことは歴史的事実である。
Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は、コロナ後の各国の現金給付を見て、通貨の歴史についての研究を『世界秩序の変化に対処するための原則』に掲載し、大英帝国のポンドやオランダ海上帝国のギルダーなどかつて基軸通貨だった通貨も含め、歴史上すべての通貨は政府によってその価値を大きく減らされてきたことを説明した。
その事実を知っている人は同じ結論に達する。フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。
すべての紙幣はその本質的な価値へと返ってゆく。つまりゼロだ。
それは日本円はもちろん、基軸通貨であるドルであっても例外ではない。
何年も紙幣を財布に入れたまま生きてきた人々は「そんな馬鹿な」と言うだろう。だがそれは歴史的事実であり、仮に政府の統計を信じたとしても紙幣の価値は現実に毎年数パーセントずつ減らされている。
これからどうなるか。フォン・グライアーツ氏は、インフレがこれで収まるとは考えていないようだ。そして紙幣を捨て、貴金属を保有することを奨めている。金価格は大きく上がっている。
今でも十分に生活は苦しくなっているのに、これからインフレはもっと酷くなる。
それが金相場が織り込んでいることだ。
世界秩序の変化に対処するための原則