政治家のインフレ政策によって引き起こされたアルゼンチンのハイパーインフレを押さえ込み、中央銀行の廃止を目標としているアルゼンチンの大統領であり、オーストリア学派の経済学者でもあるハビエル・ミレイ氏がビットコインについて語っているインタビューを見つけたので紹介したい。
中央銀行は詐欺
ミレイ氏は、政治家によって引き起こされたハイパーインフレの最中に選出された大統領で、インフレを引き起こしていた政府支出を大幅削減し、民間部門の負担を取り除いて自由に経済活動をさせることで、インフレの抑制と経済成長を両立した人物である。
ミレイ氏のインタビューだが、のっけから飛ばしている。ミレイ氏は次のように始めている。
まず理解すべきことは、中央銀行は詐欺だということだ。
ここではミレイ氏のインタビューを何度も紹介しているが、今見ても政治家の言葉とは思えない。
なぜ中央銀行は詐欺なのか
なぜ中央銀行は詐欺なのだろうか。ミレイ氏は次のように説明している。
中央銀行はインフレという税によって政治家が善良な人々を騙すためのものだ。
ここの読者なら説明する必要もないことだが、コロナ後のインフレはアメリカの場合には中央銀行が印刷した大量の紙幣を政府が現金給付という形でばら撒いたからであり、日本の場合には日銀の円安政策が円安を引き起こし輸入物価を上昇させたからである。
何故政治家が中央銀行に紙幣印刷をさせるのかと言えば、政府にお金がなくとも票田にお金をばら撒きたいからである。そして日本では「住民税非課税世帯への給付」の名のもとに働いていない高齢者にお金が配られ、働いている世帯はただお金を奪われるだけである。労働世代が一体何をしたというのか。
だからミレイ氏と同じオーストリア学派の大経済学者であるフリードリヒ・フォン・ハイエク氏は、補助金を政治家による窃盗だと言ったのである。
政治家への反撃としてのビットコイン
労働世代は税金にお金を奪われるだけでなく、政治家による紙幣印刷によってインフレというダメージも受けている。
だが考えてもらいたいのは、日本円の印刷が日本人にダメージとなるのは、誰もが日本円を使っているからである。
前回の記事でも言ったように、インフレとはものの価値が上がることではなく、紙幣の価値が下がることである。
だからインフレになっても、価値が下がる通貨を持っていなければダメージは受けない。
そこでビットコインが出てくるわけである。ミレイ氏は次のように述べている。
ビットコインが象徴しているのは、通貨というものが本来の作り手のもとに返っていっているということだ。そして通貨の本来の作り手とは政府ではなく民間のことだ。
通貨は民間の人々によって様々な問題を解決するために発明された。
過去には小麦や塩が通貨として使われた。「サラリー」(給料)という言葉は塩(訳注:ラテン語で「sal」)から来ている。
最初はあらゆるものが通貨として使われていた。だがその後貴金属を通貨として使うことが主流になってゆく。
ミレイ氏はこう続けている。
その後人々は少額支払いにはシルバーを、多額の支払いにはゴールドを使うようになった。
その後、貴金属を持ち歩くのは危険を伴ったので、貴金属を預けて預かり症をもらい、自分が資産を持っていることを証明できるようになった。
こうして紙幣が発明された。紙幣とは、民間の銀行に貴金属を預けた時の預かり証だった。しかしここから雲行きが怪しくなってゆく。
政治家による紙幣発行の独占
今政治家たちが紙幣発行の力を自由に使っているように、政治家たちが通貨の発行を独占することが儲かるビジネスだということに気付き始める。
ミレイ氏は次のように説明している。
だが1445年、ジェノヴァ共和国の最初の議会が通貨の発行を私物化し独占した。「法定通貨」とかいう概念を通してだ。ここがポイントだ。
この「法定通貨」というものによって、政治家はインフレという税金を人々から搾取する能力を得た。
国の中で誰もがその通貨を使っているから、誰もが通貨の価値の下落であるインフレから逃れられないのである。政治家はそれを自分と票田の利益のためにやっている。
だからビットコインの発明者であるサトシ・ナカモト氏は、誰かが勝手に印刷したりできない通貨を発明しようとした。
ミレイ氏はこう説明している。
ビットコインはアルゴリズムによって供給が限度に達し、そこからは供給が増えないようになっている。
更に、オーストリア学派の経済学者であるミレイ氏にとって重要なのは、ビットコインが他の通貨との競争に晒されていることである。
ミレイ氏はこう言っている。
そしてビットコインは他の通貨との競争をしている。例えばイーサリアムや他の通貨と競争している。
市場経済では、商品は他の商品との競争に晒されることで質が上がってゆく。法定通貨の価値が歴史的に下がるばかりなのは、この競争原理が働いていないからだというのが、オーストリア学派の経済学の主張なのである。
人々が法定通貨以外に通貨を使っていて、法定通貨だけ価値がどんどん下がってゆくのならば、誰も法定通貨を使わなくなるだろう。
結論
ミレイ氏はビットコインの未来をどう見ているのだろうか。ミレイ氏はこう纏めている。
重要なのは、これが通貨というものを民間の手に戻す現象だということだ。
問題はあるか? 問題は、政府がこの「法定通貨」の考え方を諦めたがらない場合にどうなるかということだ。「法定通貨」によって政治家たちはあなたたちからインフレという税金をせしめることが出来るのだから。
暗号通貨の最大の問題は、政治家が本腰を入れて暗号通貨を規制しようとした時にどうなるかである。
金融業界ではそれこそが暗号通貨の致命的な欠点だと言う人も多い。しかし自分自身がアルゼンチンの大統領であるミレイ氏は少し違う未来を見ている。ミレイ氏はこう述べている。
最終的にどうなるか? 経済のインフレがもっと酷くなり、中央銀行という詐欺が更に明らかになれば、わたしが主張するように、人々はこう言うかもしれない。
「中央銀行を廃止せよ」と。
このミレイ氏の考え方は過激に見えるかもしれないが、オーストリア学派の中では標準的な考え方である。何故ならば、政府に通貨発行の独占を許すなという考え方は、大経済学者ハイエク氏が何十年も前に著書『貨幣発行自由化論』で論じていたことだからである。
ミレイ氏は当然それを読んでいる。以下の記事ではその内容を少し紹介しているので、そちらも参考にしてもらいたい。
貨幣発行自由化論