レイ・ダリオ氏: 人々が自国通貨の無価値さに気付くにつれてゴールドやシルバーへの逃避が加速する

引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の著書『世界秩序の変化に対処するための原則』から、インフレや通貨安に苦しむ国が最終的にどうなるかについてのダリオ氏の予想を紹介したい。

紙幣の価値下落

2000年代から人々はインフレ政策によってインフレを目指してきたが、コロナ後にようやく世界的なインフレとなった。

そしてインフレとなって初めて人々はインフレ政策の問題を理解し始めているようである。その問題とはインフレである。最初から名前に書いてある。

ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』において最初から予想していた問題が、各国に少しずつ顕在化している。

日本では通貨安を止めるのが難しくなっている。経済学者のラリー・サマーズ氏は、量的緩和で円の価値を下げながら為替介入で円の価値を保とうとする日銀のことを「1人綱引き」と皮肉っていた。

金利を上げたため通貨の価値は下がっていないアメリカでは、しかし大量の政府債務に多額の利払いが生じ、多くの機関投資家が債務危機を心配している。

現状ではそれぞれの国が別々の問題を抱えている。しかしこうした問題がすべて1つの国で起きる瞬間がいずれ来る。

インフレ政策の結末

その結末は何か。前回の記事では、ダリオ氏は中央銀行はこれまでのような緩和ができなくなると述べていた。

あるいは、緩和をしてしまえばインフレと通貨安が止まらなくなるだろう。インフレ政策でインフレと通貨安が悪化したことで、コストなしでは緩和できない状況が出来上がりつつある。

世界的に既にそうなっているように、それでもほとんどの先進国はインフレと通貨安をある程度許容するだろう。それは自分の持っている紙幣の購買力がどんどんなくなってゆく状況である。

人々が銀行に持っている預金、銀行はそれで国債を買っているから実質的にはそれは国債なのだが、インフレや通貨安、紙幣と国債の爆発的増加によってその価値がどんどんなくなってゆくことを人々が認識しつつある。

不換紙幣からの逃避

そうなれば何が起きるのか? ダリオ氏は次のように書いている。

そのような状況下では、債券の保有者は自分の保有する債券を別の富の貯蔵手段と交換しようとする。

紙幣と債券がもはや優れた富の貯蔵手段ではないと人々が広く認識するとき、債務の長期サイクルは終わり、金融システムの再構築が始まる。

長期の債務サイクルとは、紙幣がもともとゴールドの預かり証だった金本位制度の時代から、中央銀行に預けていたはずのゴールドが返ってこなくなり正真正銘の紙切れとなった紙幣を後生大事に持ち続ける不換紙幣の時代となり、そしてその紙幣に実は価値がないと人々が気付くまでに更に数十年かかるという、その長期のサイクルのことである。

金本位制度が終わったニクソンショックの1971年には既に紙幣は何の価値もないものになっていたのだが、2020年を過ぎてようやく人々はそれに価値がないことに気付き始めている。

金本位制度と不換紙幣

不換紙幣の問題は、政府(中央銀行)が勝手に紙幣を印刷してその価値を薄めることである。

自国通貨で貯金をしていれば資産を蓄えられると思っていたものが、その価値が政府によって勝手に薄められるのだから、人々は慌て始めるわけである。

ダリオ氏はこう続けている。

こうした政策の結果、その中でも特にインフレによって、ゴールドやシルバーなど現物資産への回帰が起こる(しばしば銅か、あるいはニッケルなどの他の金属も使われる)。

何故ゴールドやシルバーなどの現物資産が求められるのか。貴金属なら誰かが勝手に印刷することは出来ないからである。採掘することは勿論できるのだが、それは中央銀行が自由に紙幣を印刷するよりもよほど難しい。

相手に渡した商品の代わりに受け取ったものの価値が、誰かの独断で勝手に減らされないことが重要なのである。ダリオ氏はこう続けている。

この状況下では、貨幣は現物資産であることが重要となる。交換に際して信用を必要としないからである。

仮に戦争中であって、相手の考えや財務状況が信用できない状況下でも、ゴールドでなら支払いが出来る。

それはサトシ・ナカモト氏がビットコインを作った時のコンセプトでもあった。供給を誰かが勝手に増やせないことが、富の貯蔵手段としては当然重要なのである。

債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏などは、最近のビットコインの価格上昇はアメリカの債務問題と繋がっていると述べている。

結論

最終的にはどうなるか。紙幣からの逃避はババ抜きのようなものであり、遅く逃避すればするほど被害は大きく、しかも価値下落の速度は加速してゆく。

そして最終的には誰も紙幣を信じなくなり、政府が通貨を発行するには現物資産の裏付けが必要になり、各国の通貨は金本位制などに回帰してゆくのである。

そして金本位制度に回帰してしばらくすると政治家は裏付けとして確保しているはずのゴールドをまた盗みたくなり、国民が預かり証を持ってきても預かっているゴールドは返さないという次のニクソンショックへとまた繋がってゆくのである。

このサイクルを1周するのに100年くらいかかるだろうか。そして、まさにダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』において研究した通り、それは歴史上何度も繰り返されているのである。

ダリオ氏は次のように述べている。

このようなサイクルは一大事で、しかも有史以来ほとんど何処ででも起こってきたから、それを理解し、時代が変わっても変わらない普遍的な対処法を身につけることが必要である。

対処するためには、まずこの歴史的なサイクルを理解することが必要である。ダリオ氏の著書を読むべきである。


世界秩序の変化に対処するための原則