アルゼンチンをハイパーインフレから救った大統領であり、オーストリア学派の経済学者でもあるハビエル・ミレイ氏が、レックス・フリードマン氏のインタビューで自身の経済学的信念について語っている。
ハイパーインフレを打ち砕いたミレイ氏
アメリカでは新トランプ政権が政府効率化省を設立してイーロン・マスク氏をトップに据え、政府の無駄を削減し財政赤字の問題を解決しようとしている。
だが世界にはそれを既に成し遂げている政治家がいる。マスク氏の友人でもあるミレイ氏である。
ミレイ氏は200%を超えるハイパーインフレとなっていたアルゼンチンで、それまでのインフレ政策を一層し政府支出を極限まで抑えることで、インフレ率を年率2%台にまで抑えた上で2025年には5%の経済成長率を達成すると予想されている。
これまでの政治家は政府支出を増やすことでGDPを増やすと標榜し、無駄な公共事業と政府債務を積み上げてきたのに、ミレイ氏は政府支出を削減することで経済成長を実現しようとしている。
ミレイ氏の経済思想
ミレイ氏はどういう考えのもとそれを行なっているのか? 例えば東京五輪やGO TOトラベルのように、政治家が行なう政府支出は経済改善のためではなく自分と票田を潤すためのものであり、それが無い方が経済はよく回るというのは、経済学者でもあるミレイ氏が信じるオーストリア学派の経済学の基本的信条でもある。
例えばオーストリア学派の代表的な経済学者であるフリードリヒ・フォン・ハイエク氏は無制限の政府支出の根幹にあるのは政府の通貨発行権だとして、通貨発行を民間にも許し政府の通貨と競争させるべきだと著書『貨幣発行自由化論』で主張している。
だがミレイ氏自身はどう考えているか。彼は次のように述べている。
厳密に言えばわたしは無政府資本主義者だ。わたしは政府を軽蔑している。暴力を軽蔑している。
わたしはリベラリズムの定義として、アルベルト・ベネガス・リンチ氏の定義を取り上げたい。それはジョン・ロックによる定義とほぼ同じものだ。それは「リベラリズムとは人の生活と自由と財産の権利を擁護し、他者を侵害しない原則に基づき、他人の生活上の活動を無限に尊重することである」というものだ。
政治や経済の記事を普段から読んでいる読者は「リベラリズムとはそういうものだったか?」と思ったに違いない。だがミレイ氏の言うように、リベラリズム(自由主義)の本来の定義はこちらなのである。自由を擁護し、政府による政治家都合の税制や規制を悪とみなす。
しかしここ数十年の変化によっていつの間にかこの言葉は、SDGsなどの奇妙な政治的イデオロギーを持った一部の人々が政府を通してその考えを他人に強要するためのものに変わってしまった。
本当のリベラリズムとは
ミレイ氏は軽蔑の対象として政府と暴力を並べている。なぜこの2つが並ぶのか。それは、政府が人々が必ずしも同意していない資金の移動や規制を強制するからである。
ハイエク氏は、政治家による現金給付を他人から無許可に財産を取り上げて自分の票田にばらまくことだと主張していた。
ミレイ氏は更に踏み込んで政府の本質は納税の強要だと述べたことがある。
そしてこの強要は、究極的には警察という軍事力によって行われている。納税の強要に従わなければ武力で罰を与えるというわけである。だが政治家が誰かから資産を没収して勝手に他の誰かに与えることに何の正当性があるのか。
税制とは暴力である
だからミレイ氏の意見では、あなたが暴力に反対するとき、論理的には税制にも反対しなければならないのである。
ミレイ氏は次のように述べている。
この考えにたどり着いた時、あなたはもう既に事実上無政府資本主義者なのだとわたしは言いたい。
だがミレイ氏は本当に政府を完全になくしてしまおうとしているわけではない。ミレイ氏は次のように続けている。
この考えはわたしの理想の世界を表している。それは理想の世界なのだ。
だが現実には多くの制約がある。いくらかの制約は取り払える。いくらかは取り払えない。だから現実の世界では、わたしは最小国家主義者だ。政府の規模を最小化することを主張する。規制もできるだけ多く取り除く。
そしてミレイ氏はそれを実現した。トランプ政権の政府効率化省も、恐らくはミレイ氏の政策からの借用である。ミレイ氏は次のように述べている。
われわれには規制緩和省というものがあって、毎日1〜5個の規制を撤廃している。
結果どうなったか? 財政赤字を撒き散らしてハイパーインフレに陥っていたアルゼンチンは、ミレイ氏の政府支出の削減によって12年ぶりの財政黒字を達成している。
そして支出を減らしたにもかかわらずアルゼンチンは2025年に高い経済成長を実現しようとしている。
そして株価は大きく上がっている。アメリカに上場しているアルゼンチン株ETFは、2023年11月のミレイ氏の当選以来株価が倍に上がっている。
無駄を減らせば効率は良くなる。そういう当たり前のことをハイエク氏らオーストリア学派の経済学者はもう100年近く言い続けているのだが、これまで誰も耳を貸して来なかった。
だが世界がインフレになって始めて、人々はインフレ政策に反対してきたオーストリア学派の言葉にようやく耳を貸そうとしている。やや遅いのではないか。
貨幣発行自由化論