アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領がレックス・フリードマン氏の動画配信で、アメリカの新トランプ政権に対して助言を送っている。
ハイパーインフレを退治した大統領
アルゼンチンのミレイ大統領は、アルゼンチンが200%を超えるハイパーインフレに襲われている中で当選し、インフレ率を2.7%にまで押し下げた傑物である。
ミレイ氏はそれをどうやってやったか? 政府支出を極限まで押し下げたのである。ミレイ氏が当選して最初にやったのは閣僚の数を半分にすることだった。
それはインフレを引き起こしたインフレ政策を討ち滅ぼすことだった。
更にはミレイ大統領は最近、税金の9割を廃止し、最高でも6種類の税金だけを残すことを表明した。これは税額の話ではなく、税金の種類の話である。税制を簡素化することで煩雑な事務手続きを撤廃し、政府の支出を極限まで減らそうというわけである。
ミレイ氏は本気だ。無駄な政府支出を切り落とし、ハイパーインフレを退治した上に、IMFは2025年のアルゼンチンの経済成長率を5%と見積もっている。
ミレイ氏は政府の経済への介入を悪と見なすオーストリア学派の経済学者であり、自分の学説を自分の経済政策で証明したわけである。
トランプ政権とミレイ大統領
さて、トランプ政権は今、アメリカのインフレを悪化させずに経済成長を実現させるという難事業を強いられている。
そんなトランプ政権にとってインフレを退治して経済成長を実現したミレイ氏は師のような存在である。トランプ氏から政府効率化省(DOGE)の設立を任じられたイーロン・マスク氏とヴィヴェック・ラマスワミ氏はミレイ氏の改革を賞賛している。
マスク氏とミレイ氏はTwitter上でよく交流しており、4月にはテキサス州のTeslaの工場で顔を合わせている。
政策でトランプ政権の先を行くミレイ氏はトランプ氏について何と言っているか。
ミレイ氏は先ずトランプ氏はリベラル派の価値観に抵抗していることを称賛し、次のように述べている。
トランプ大統領についてわたしが尊敬することがいくつかある。
トランプ氏は現在行われている文化的な闘いの本質を理解している。トランプ氏は社会主義に反対することを公言している。彼の主張は公に社会主義を敵としている。彼はリベラル派のウィルスを理解しており、その本質を理解していることは大きな価値をもつ。
ミレイ氏はよほどのリベラル嫌いらしい。それは彼の経済学上の信念と結びついている。オーストリア学派の経済学では、公共事業や政府による規制には何の倫理的根拠もないからである。それは他人から金や権限を盗んで自分(あるいは自分の票田)の政治的目的のために自由に使うことである。
彼らは「貧しい人々に補助金を与えずに放置するのか」と言うだろうが、その資金源は常に他人の財布である。自分の金でやれば誰も文句を言わないのだが。
トランプ政権は政府支出を削減できるか
さて、より重要なのは、トランプ政権がミレイ大統領のように、政府支出を削減した上で経済成長を実現できるかどうかである。
ミレイ氏は自分の友人でもあるマスク氏ら政府効率化省の職員に対して次の言葉を送っている。
限界まで支出を削減することだ。限界までだ。たったそれだけだ。
わたしの助言は最後までやり切ることだ。限界まで削減する。決して諦めてはならない。油断するな。
本当に限界まで支出を削減し、ハイパーインフレのアルゼンチンを財政黒字にしてしまったミレイ氏の言うことは違う。
だがミレイ氏と同じことがマスク氏らに出来るだろうか。アルゼンチンでは、ハイパーインフレという状況がミレイ氏の過激な経済政策に政治的な支持を与えた。
アメリカの大統領選挙ではトランプ氏と共和党は勝利したとはいえ、ミレイ氏と同じくらい過激なことが出来るだろうか。財務長官を任せられているスコット・ベッセント氏の支出削減に関する言葉はやや歯切れが悪い。
ミレイ氏もマスメディアなどの強烈な抵抗に遭ったように(ミレイ氏は「彼らはわたしの愛犬までも標的にする」と言っている)、もしマスク氏らが本気であらゆる政府支出を削減しようとすれば、あらゆる抵抗に直面するだろう。
だがミレイ氏は次のように言っている。
政府支出を削減する主義主張には決して政治的な目的はない。何故ならば、最後には自分の権力も破棄してしまうからだ。
もちろん不満を言う人々もいるが、それは特権を失う人々だ。彼らは何故自分たちがそういう特権を持つべきなのかを説明しなければならなくなる。そしてそれは彼らにとって気まずい状況だ。
興味深いのは、日本で自民党が多少その立場に置かれ始めていることだ。国民民主党が減税を主張し、自民党がそれに反対する度に自民党は自分の腹の中をさらけ出さなければならなくなっている。
だが国民民主党も減税は公約にしているが、支出の削減は公約にしていない。それが日本とアルゼンチンの大きな差である。
結局、アルゼンチンが緊縮財政に耐えられたのは、ハイパーインフレとどちらが良いかという現実を突きつけられたからである。
日本人もハイパーインフレを突きつけられるまで、同じ道を選ぶことは出来ないのだろうか。
レイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で解説している通り、歴史上の多くの国はそのシナリオを辿っている。日本はどうなるだろうか。日本人の賢明さが問われている。
世界秩序の変化に対処するための原則