ハイエク氏: 通貨を政府がコントロールしなければならないというのは根拠のない幻想

何十年ぶりにインフレが現実のものとなり、インフレを回避するためにビットコインなどの暗号通貨も盛り上がる中、今一度20世紀最大の経済学者であるフリードリヒ・フォン・ハイエク氏の著書『貨幣発行自由化論』から通貨に関する論考を紹介しよう。

先進国の財政赤字

コロナ後、先進国の政府債務は急速に悪化しており、更に悪いことにインフレ対策の金利上昇により国債に利回りが付き始めたことから、アメリカなどの各国政府は財政状況が急激に悪化している。

金利がゼロだった頃には、債務がいくら増えても利払いはゼロだった。だから債務はどれだけ増やしても問題ないということがまことしやかに言われていた。

しかしインフレ政策でインフレが発生し、金利が上昇し始めれば、政府は借金の利払いを新たな借金によって支払わなければならなくなり、乱発される大量の国債が国債市場を下落させる危険性が出る。

だから政府はインフレ政策などと言いながら、中央銀行に量的緩和で国債を買い入れさせたりすることで、死にものぐるいで金利を低く保ってきたのである。

低金利政策の意味

それが長年行われてきた低金利政策の意味である。ハイエク氏は次のように述べている。

政府の肥大化は主に紙幣印刷によって財政赤字を補填できることが原因だが、表向きはそれによって雇用を守れるからだという言い訳によって行われる。

完全雇用ということが経済学の世界で長年言われてきた。それがあたかも経済学の最大の目標であるかのように持ち上げられてきた。

だが実際には政治家はそれを自分の使える予算が国債の利払い費用に食われないようにするためにやっていたのであり、ケインズ氏の系譜に属する大量の自称経済学者たちがそれを支持してきたのである。

だがケインズ氏と同じ時代に生きたハイエク氏は次のように言う。

人類の歴史は大まかにいってインフレの歴史であり、インフレは政府によって政府の利益のために引き起こされた。

通貨の歴史を研究する者なら誰でも、政府が2000年以上もの長い間、人々を騙して搾取するために通貨を恒常的に使ってきたことを我慢しなければならなかったのかと疑問に思うことを避けられないだろう。

常に減価されてきた貨幣

少しでも勉強したことのある人なら、歴史上のあらゆる硬貨は金や銀の含有量を少しずつ減らされ、最終的には無価値になったことを知っているだろう。

こうした政策で一番有利となるのは債務者であり、実体経済で一番大きな債務者とは多くの場合政府である。

だから政府にとって、金を100g借金して50gしか返さなくても良いということになれば、それほど有難いことはないだろう。現代の紙幣印刷も同じことであり、政府は同じように紙幣の価値を薄めている。

そしてその政策で一番の犠牲者となるのは、(麻生太郎氏も借金しているのは政府であって国民ではないと正しくも言っていたが、)銀行にある預金を通して国債を買っている国民なのである。

政府による通貨発行権の独占

だがここで1つの疑問が生じる。そもそも何故通貨は政府だけが発行しているのか? ハイエク氏はその特権をそもそも疑っているのである。

ハイエク氏は次のように述べている。

このことは政府の特権が必要なのだという神話によってのみ説明できるが、この神話はあまりに深く根付いているので経済学の学徒であっても疑問に抱くことが少ない。

しかしその妥当性を一度疑問に思ってみれば、その根拠が薄弱であることはすぐに分かる。

ハイエク氏の上の議論をもう一度持ち出してみよう。

通貨の歴史を研究する者なら誰でも、政府が2000年以上もの長い間、人々を騙して搾取するために通貨を恒常的に使ってきたことを我慢しなければならなかったのかと疑問に思うことを避けられないだろう。

何故なのか? 誰か教えてほしい。それを疑問に思いつつある人々は増えており、そうした人々は日本円やドル紙幣を捨てて、ゴールドやシルバーやビットコインに逃げているのである。

ハイエク氏は何十年も前の人なのだが、政府だけが通貨を発行するのではないという話は、まさに現代のビットコインの話ではないか。

暗号通貨がドルや円の代わりになるためにはかなり大きな障害が存在する。それはかつてスイスの銀行業が直面した脅威である。

だがハイエク氏が指摘したように、政府とインフレの関係を人々が意識し始めたのは良いことではないか。ゴールドや暗号通貨の行方をこれからも報じてゆく。


貨幣発行自由化論