トランプ新大統領はインフレを引き起こさずに景気刺激できない

アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ全大統領が勝利し、来年からはトランプ政権が始まる。ウクライナの和平交渉は既に進んでいるようだが、経済の方ではトランプ氏は難局に立たされるかもしれない。

大統領選挙後の金融市場

11月にトランプ氏が勝利し、株価もある程度は上がっているが、世界の金融市場を広く観察している筆者にはどうも市場が「トランプ氏勝利で景気改善」というシナリオを信じてはいないように見える。

確かにトランプ氏勝利の前後で金利は上がった。それは2016年にトランプ氏が大統領に選出された時の流れと同じである。アメリカの長期金利は次のように推移している。

だが筆者には、この金利上昇が2016年のような景気拡大を予想してのものではないように思えるのである。

上がっていない景気に敏感な銘柄たち

金融市場には景気に敏感な銘柄というものがある。市場が景気向上を予想すれば上がり、景気後退を予想すれば下がる銘柄である。

それは例えば銅である。ゴールドが金利などに大きく影響される一方で、建設分野などの実需に支えられている銅は、2016年からのトランプ相場でどの銘柄よりも上がった銘柄である。

だが今回、銅相場は同じようにはなっていないようである。銅価格は次のように推移している。

市場が景気改善を信じない理由

だがそれでも金利は上がっているので、市場はインフレ上昇の可能性は排除していないようである。

何故市場はトランプ新大統領の景気刺激による景気改善を信じていないのか? 筆者の考えでは、その理由はアメリカのインフレ率にあるではないかと思う。

最新11月のインフレ率は、前月比年率(以下同じ)で次のようになっている。

これは毎月の変化率(の年率)だが、ここ1年のインフレ率は2.7%となっている。

ちなみに食品とエネルギー除くコアインフレ率は次のようになっている。

こちらは1年の変化率は3.3%である。

インフレの内容

ポイントは2つある。1つは両方とも2024年に底打ちしているように見えること、そしてもう1つはインフレ率が2%台であり、コアインフレ率が3%台であることである。

底打ちについては、筆者は経済内の貨幣と預金の総額であるマネーサプライと関係があるのではないかと考えている。アメリカのマネーサプライのグラフは次のようになっている。

利上げによるマネーサプライ下落が2024年に反転しているのである。つまり実体経済にお金が流れ込んでいる。

あとはコアインフレ率の方が高くなっている理由だが、その1つは賃金だろう。平均時給の上昇率は次のように推移している。

こちらも2024年から上がっている。

インフレの動向予想

Fed(連邦準備制度)はインフレは2%に向けて下がるとして利下げを行なっているが、コアインフレ率を分析すれば分かるように、全体のインフレ率が2%台になっている理由はコアインフレ率以外の部分が何とか数字を2%台まで押し下げているからである。

それは食品とエネルギーであり、つまりは原油や天然ガス、大豆、小麦など、金融市場で取引される銘柄に影響される部分である。

原油は継続的になだらかな下落となっているのだが、70ドル付近が底となっているようで、なかなかその下へは下がらない。

トランプ氏は原油価格の押し下げを公約にしているが、その実現可能性が乏しいことについては以下の記事で書いておいた。

結論

原油価格がこのままなだらかな下落を続ければ、インフレ率は2%を維持することはできるが、原油価格もコアインフレ率もそれ以上に下がる要素がない。

仮に原油価格の下落が止まればインフレ率はコアインフレ率の3%台に一致することになるのであって、いずれにしてもアメリカのインフレは現状目標の2%を上回っている。

つまりトランプ氏は緩和どころか景気を押さえなければならない状況にあるわけであって、景気刺激をしている場合ではないのである。

トランプ氏にとって幸いなのは、アメリカのGDPにまだ余裕があるということだろう。インフレ率がこの状態でGDPが支えを必要としていれば、インフレを許容してまで緩和しなければならなくなる。

投資家にとって重要なのは、緩和の規模に関係なく、アメリカ経済は緩和すればインフレになる状況だということである。

トランプ氏はどうするのか。このままGDPが下がってきて、インフレが2%以上の状況で緩和しなければならなくなったら、トランプ氏は緩和するだろうと筆者は思う。

だから景気が大きく落ち込むリスクは少なく、以下の記事で紹介したような株式の個別銘柄に関してはこのまま賭けておいて良い状況だと筆者は判断している。

だがアメリカ経済が微妙な状況だということは理解しておくべきだ。一部の投資家はインフレに振り切る方向に賭けているが、どうなるだろうか。