サマーズ氏、アメリカの公共事業の非効率さを皮肉る

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がハーバード大学での講演で公共事業の非効率さを嘆いている。

アメリカの公共事業

アメリカの財政赤字が話題になっている。コロナ後の高金利で大量の政府債務に多額の利払いが発生して以来、アメリカの借金を心配している専門家が増えている。

サマーズ氏もその1人である。だがリベラル派で民主党の支持者であるサマーズ氏は、公共事業の必要性も訴えている。

だがサマーズ氏のような優れた頭脳には、政治家が事業と業者を選ぶ公共事業が非効率であることは否定できない事実である。

それはアメリカでは特にそうである。アメリカの道路はかなり壊れている。また、高速鉄道がなぜか整備されていないので、アメリカ人は日本の何倍もある国土を自家用車で走り回っている。何時間ものドライブはそれほど稀ではない。

非効率な公共事業たち

さて、サマーズ氏は公共事業の非効率さを説明するためにいくつかの例を挙げている。まずはこれである。

この会場に来ている人はみな、この場所とビジネススクールを繋ぐラーズ・アンダーソン橋を渡ったことがあるだろう。

あの橋は、建設されてから1世紀経ったので、何年か前に改修が必要になった。橋の全長は350フィート(訳注:100メートル強)で、歴史的な橋だ。

改修のために道の片側が62ヶ月の間通れなくなった。

聴衆はほとんどがハーバードの学生なので、身近な例で分かりやすいだろう。その工事の何が問題なのか。サマーズ氏は次のように続けている。

ちなみに第2次世界大戦で勝利するのに45ヶ月かかった。

日本に勝つより橋を建てるほうが難しいというわけだ。

サマーズ氏の例はまだまだ続く。彼は次のように続けている。

こんな話はそれだけではない。ニューヨークの2番街の地下鉄は効率性で名高いとは言えない都市と比べて1キロあたり10倍のコストがかかっている。パリと、トルコのアンカラだ。

アメリカはお世辞にも鉄道建設の経験が豊富だとは言い難い。ロサンゼルスなどは車がなければ移動できない。長距離も短距離も電車がないのである。

次はサンフランシスコの有名なゴールデンゲートブリッジで、サマーズ氏は次のように言っている。

いくらでも例を出せるがこれで最後にしよう。ゴールデンゲートブリッジの下にネットを張ろうという提案が出されたことがある。自殺のリスクを減らせるかもしれないという考えのためで、まともで良い提案だと思う。

素晴らしい計画ではないか。ちなみにゴールデンゲートブリッジに自殺防止のネットを張るためのこの計画は、ある別の工事よりも30%長く時間がかかり、コストはその80%かかると計算された。

ある別の工事とはゴールデンゲートブリッジの建設だ。ちなみにインフレ調整後の値段だ。

もはや笑うしかないが、それはアメリカのせいなのか、公共事業のせいなのか。

結論

おそらく両方だろう。サマーズ氏は上のが最後だと言いながら、もう1つ例を挙げている。

イーロン・マスク氏は多才な優れた人物で、賞賛すべき男だ。だがいち私企業の社長が世界最大の国家が誇るNASAの4倍の重量を毎年宇宙に打ち上げているというのは何かおかしくないだろうか。

最後に非効率の例として挙げられたのは、アメリカの誇るNASAだった。

サマーズ氏はリベラルだから、こうした問題を改善して政府はきちんと公共事業をやるべきだと主張している。サマーズ氏は次のように述べている。

ディベロッパーが事業に取り掛かるまでに何年も認可を待つような状況を何とかし、ディベロッパーが本当にディべロップできるようにしなければならない。

だが公共事業が民間企業より非効率であることには理由があるのではないか。それはサマーズ氏自身が以下の記事で言っていたことである。

政治家は認可を好む。自分が認可を決める立場になれば、自分に「ごまをする」ようになる人々が増えるからである。

公共事業が非効率な理由は政府がすべてを決定する社会主義国家が非効率な理由と同じである。

それは政府が政府であるかぎり変わらないのではないか。だが、サマーズ氏も言及しているイーロン・マスク氏がトランプ政権が新設する政府効率化省のトップに就任し、政府の無駄を削減するという。

マスク氏はTwitterの社員の8割を削減してもTwitterを動かし続けている男である。それはなかなか凄いことである。

マスク氏はアメリカ政府の無駄を削減し、アメリカの債務問題を救うことができるのだろうか。できなければ、サマーズ氏が以下の記事で述べていたシナリオが実現するだろう。