引き続き、ドナルド・トランプ次期大統領により次の財務長官に指名されたファンドマネージャーのスコット・ベッセント氏の6月のManhattan Instituteでのインタビューから、アメリカの財政赤字について語っている部分を紹介したい。
新財務長官の経済政策
前回の記事ではベッセント氏がトランプ氏に提言する3つの経済政策について説明した。
それは3%の実質経済成長と原油産出増加と財政赤字縮小を目標とするものだった。
財政赤字縮小がどれだけ本気かは不明である。少なくともアルゼンチンでハイパーインフレを抑制した上で高い経済成長率を実現しているミレイ大統領のようなシナリオを夢見ていることは確かである。
アメリカの債務問題
ベッセント氏はアメリカの債務問題について次のように行っている。
今年、米国債の利払い費用は1.1兆ドルになる。防衛費を超えている。
今ベッセント氏を含む機関投資家がこぞって政府債務の話をしているのは、コロナ後の金利上昇によって国債に莫大な利払いが生じているからである。
そして利払い費用が国防費を超えていることについて、ジョニー・ヘイコック氏は次のように言っていた。
歴史を振り返れば、大国において負債への利払いが国防費を上回るとき、もうその国は長くはもたない。
財政赤字と国家の覇権
ただ、ベッセント氏はアメリカの債務問題を単に金の問題だとは考えていない。ベッセント氏は次のように述べている。
財政赤字は国防の問題だ。赤字が増え続ければ国防に問題が生じる。
レイ・ダリオ氏は著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で債務問題は国家の覇権と関わっていると言っていた。大英帝国などの過去の覇権国家は、債務とインフレで覇権を失ったからである。
ベッセント氏の意見はそれを具体的に解説するようなものである。ベッセント氏は次のように続けている。
困難が生じたときに負債を増やせるかどうかがアメリカにとって重要だ。
南北戦争においてアメリカの財務省は負債を拡大して国家を救った。世界恐慌において政府支出の増加が国民の生活を救った。そしてアメリカは第2次世界大戦において世界を救った。
アメリカが第2次世界大戦で救ったのは世界ではなく植民地支配を始めたイギリスやフランスだが、それは置いておこう。
ベッセント氏の論点は、財政の力は軍事力とリンクしているということである。だからこそ大国は負債を増やしてゆく。だが負債を増やしてゆくと、インフレや金利上昇が起こってどんどん負債を増やせなくなってゆく。
それがダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で解説している覇権国家の衰退なのである。
結論
来年から財務長官になるベッセント氏は、少なくとも問題の大きさを理解している。彼は次のように言っている。
財政赤字は減らさなければならない。そうでなければ危機のときに動けなくなる。
だが債務問題のうち大きな部分は年金制度だ。アメリカにも似たようなものはある。高齢者にこれから支払いをしなければならないが、その原資が何故か何処かに行ってしまっているのである(むろん政治家が勝手に使ったわけだが)。
クォンタムファンドにおけるベッセント氏の先輩であるスタンレー・ドラッケンミラー氏は次のように言っていた。
2040年には、年金と国債金利の支払いだけで税収がすべて消える。
アメリカの年金は将来必ず減額される。減額しなくても良くなるというのは嘘であり、妄想だ。
問題は今減額するのか、後で減額するのかだ。
もし今減額すれば今の高齢者にとってどれほど酷いことになるかと言う人がいるが、未来の高齢者はどうでも良いのか?
ドラッケンミラー氏は、共和党と民主党が唯一政策で一致しているのは年金制度に手を触れないことだと言って両方の党に失望していた。
ベッセント氏は年金について何と言っているか。彼は次のように言っている。
年金の支払いは巨額だ。次の4年はそれに対処すべき時ではないと思う。
果たしてトランプ政権の財政赤字削減は本気なのだろうか。やらなければ、アメリカにはダリオ氏の言う衰退の道が待っている。
世界秩序の変化に対処するための原則