ガンドラック氏、長期の米国債から逃避、アメリカの財政赤字拡大で

DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がCNBCのインタビューでアメリカの金利と債券市場についてコメントしている。

利下げで国債金利上昇

アメリカの金利はどうなっているか。パウエル議長は物価高騰後初めての利下げを開始し、金融緩和でインフレ再加速を懸念した金融市場では皮肉なことに国債の金利は上昇した。

政策金利と2年物国債の金利を並べると次のようになっている。

ガンドラック氏は次のように述べている。

2年物国債の金利は0.6%上がり、政策金利は0.75%下がった。結果として政策金利が2年物国債の金利に1.35%近づいたことで、パウエル議長はたった2回の会合によって債券市場の意見に歩み寄っている。

ガンドラック氏はインフレ率下落とアメリカ経済の減速を予想してきたから、利下げは予想通りだろう。ガンドラック氏は次のように続けている。

12月にはもう一度利下げがあるだろう。それで政策金利は2年物国債の金利の水準に一致するからだ。

利下げでも長期国債は買えない

利下げは行われており、ガンドラック氏の意見ではアメリカ経済は減速を続けている。

金利低下は債券価格の上昇を意味するから、この状況で普通ならば債券投資家は国債を買う。

だがガンドラック氏は少なくとも長期の国債は買えないという。その理由はアメリカ政府による国債の大量発行である。

ガンドラック氏は次のように説明している。

国債の発行量がやや驚異的な規模になってきている。アメリカは過去12ヶ月で2兆ドルの財政赤字を出しており、それはGDPのおよそ6%に相当する。経済成長が続いているにもかかわらずだ。

国債の利払いについてはいつも話しているが、3年前には年間3,000億ドルだった。今では年間1.3兆ドルだ。

国債が発行されるということは、国債が債券市場に供給されるということである。需要と供給の関係から、供給が急増すれば国債の価格は下落する。だから多くの識者が米国債の価格下落を警告しているのである。

また、もう1つの問題は、コロナ後の金利上昇によって大量の政府債務に利払いが生じていることであり、この利払いをGDP比で計算すると次のような推移になる。

GDPの3.8%程度であり、ガンドラック氏の言うように財政赤字自体が6%程度だから、アメリカの財政がかなりまずい状態だということは素人でも分かるだろう。

雪だるま式に増える政府債務

しかもガンドラック氏によれば、米国債の利払いの増加は留まるところを知らない。ガンドラック氏は次のように説明している。

しかも5年前や3年前に発行された低金利の国債が大量にあって、それらが大幅に高い今の金利で借り換えられている。

利払いは急増しているが、それでも金利が低かった時代に発行された国債の金利は今でも低いままである。

だが借金には期限がある。ここから来年にかけてかなりの米国債が期限を迎え、高くなった今の金利で借り換えられることになる。

そうすれば米国債の利払いは更に増えてゆく。アメリカの財政はかなり詰んでいると言っていい。

借金を借金で返すアメリカ

勿論米国政府には増加する利払いを行なう資金はない。どうするか? 新たに国債を発行するのである。

つまり、アメリカはどうしようもない勢いで増加している借金を、借金で返済しようとしている。債券市場には大量の米国債がばら撒かれることになる。

ガンドラック氏は次のように述べている。

それは債券市場にとって供給過剰の問題であり続ける。

この理由により、アメリカ経済は徐々に減速しているにもかかわらず、われわれは長期国債に強気ではない。国債の発行量は極めて大きな問題だ。

投資家としてはどうしているのか。ガンドラック氏は次のように続けている。

だから投資家には中期の国債に留まるように忠告している。20年物や30年物を買ってはならない。

実際、われわれの債券ファンドの多くでは、何週間か前に金利が低かった時に保有国債の期間を短くした。アメリカの財政問題に巻き込まれたくないからだ。

景気後退時の金利上昇

ここまでの話でアメリカの財政は十分に危機的なのだが、ガンドラック氏は更に最悪のシナリオを想定している。

ガンドラック氏は次のように言っている。

この問題は景気減速中の金利上昇に繋がる可能性がある。

景気後退では普通金利は低下する。しかしガンドラック氏は、景気後退による金利低下圧力よりも国債の発行過多によって国債価格が下落し、金利が上昇する可能性を指摘している。

そうなればアメリカは本当に終わりである。景気後退時に金利が上がれば、景気後退は更に酷くなってゆくだろう。

Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で、アメリカ以前の覇権国家である大英帝国やオランダ海上帝国を例に挙げ、歴史上の大国はインフレと政府債務によって衰退していったことを説明した上で、アメリカも同じ運命を辿る可能性に言及している。

コロナ後にこの本を書き始めたダリオ氏は、現在のアメリカの状況を予想していたのである。

その状況がかなり近づいている。機関投資家たちはその準備をしている。


世界秩序の変化に対処するための原則