ドラッケンミラー氏: 米国債が暴落するまであと1年の可能性

引き続き、ジョージ・ソロス氏のクォンタムファンドを長年運用したことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏のノルウェー銀行によるインタビューである。

今回はアメリカの金利と米国債の価格について語っている部分を紹介したい。

米国債の下落

これまでの記事では、ドラッケンミラー氏はFed(連邦準備制度)の利下げと新大統領の財政支出のお陰でアメリカのインフレが再加速する可能性について警告していた。

実際、ドラッケンミラー氏は金利上昇に賭けて米国債を空売りしている。

それはつまり米国債の価格下落を予想しているということである。

だがそれは大統領選挙の前後の相場についてのドラッケンミラー氏の予想であり、今回の話は他の機関投資家も話しているような、より長期でより規模が大きい話である。つまり、アメリカの財政はいつまでもつかという話である。

アメリカの債務危機

アメリカの財政問題は今年の2月にポール・チューダー・ジョーンズ氏によって最初に持ち出された。

アメリカは現在コロナ後に金利が上がったことにより、莫大な債務に多額の利払いが発生している。

無一文のアメリカ政府にはその利払いを行なう資金は当然ないので、国債の利払いは新規の国債発行によって賄われる。つまり、借金を新たな借金で返しているのである。

それを続けると債務が雪だるま式に増加し、またたく間に持続不能な水準まで増えてゆく。

だからアメリカに限らず金利の上がった先進国では債務問題はギリギリの状態にある。そしてそのギリギリの状態を一歩踏み越えかかったのが、イギリスのリズ・トラス政権である。

トラス元首相はコロナ禍の物価高騰を大規模なばら撒きによって乗り越えようとした。発表された緩和の規模は2年間でGDPの10%に及んだ。

だがそれは実現しなかった。発表した途端に英国債と通貨ポンドの両方が急落し、トラス氏は辞任に追い込まれたからである。

アメリカの債務問題と基軸通貨ドル

だがコロナ禍においてイギリス以上の緩和を行なったにもかかわらず、国債も通貨も今のところ無事の国がある。アメリカである。

ドラッケンミラー氏は次のように述べている。

ドルが基軸通貨であるお陰で、アメリカはイギリスには出来なかったことが許されている。

「リズ・トラスされる」という新しい言葉があるが、アメリカがまだリズ・トラスされていないのはドルが基軸通貨だからだ。

だがアメリカが財政に関してやっていることは、イギリス人のやっていたことよりもよほど過激だ。

アメリカの通貨ドルは基軸通貨である。つまり、その通貨はアメリカだけでなく世界中で使われている。

それはつまり、ドルや米国債を買ってくれる人が世界中にいるということである。その資金がドルと米国債を買い支えている。だからアメリカはまだリズ・トラスされていないのである。

日本もインフレにもかかわらず量的緩和を止めなかったために最近まで円安が止まらなかった。それはアメリカだけの特権である。

だが、それもウクライナ情勢後に変わり始めている。ドルからゴールドへと資金がシフトし始めているからである。

債務の利回り上昇

また、ドラッケンミラー氏は金利が上がったにもかかわらず、アメリカ経済がまだ無事な理由をもう1つ挙げている。

アメリカがまだツケを払わないでいられる1つの理由は、コロナ禍において個人の80%が住宅ローンを借り換えたからだ。

だから住宅ローン金利は8%まで上がったにもかかわらず、住宅ローンの平均はいまだに4%を下回っている。

企業も金利が低い間に債務の期限を伸ばした。

多くの人や企業がコロナ初期のゼロ金利時代に借金を借り換えた。その借金の金利は、今金利がどれだけ上がっていても、もう一度借り換えない限り低いままである。

だが借金はいつかは借り換えなければならなくなる。その時には現在の上がった後の金利で借り換えることになる。

ドラッケンミラー氏は次のように続けている。

そうした債務が2025年や2026年には期限を迎える。

問題が起きるとすれば、まだ分からないが恐らく2025年の後半か2026年の前半ぐらいだろうか。

つまり、利下げにより政策金利が下がってゆくとしても、既に存在している借金の利回りはここから上がってゆく。それが問題を引き起こすとドラッケンミラー氏は予想している。

問題とは何だろうか。ドラッケンミラー氏は次のように続けている。

問題とは国債の入札が不調になるか、Fedがインフレに対する判断を間違って緩和が経済を過熱させ、インフレを再燃させるか。

どちらも国債の価格が下落するというシナリオである。特に国債の入札に問題が生じることは他の機関投資家も言及している。

米国債暴落まで、ドラッケンミラー氏によればあと1年ほどだということである。これはドラッケンミラー氏だけの意見ではない。機関投資家の間ではほぼメインシナリオとなっている。タイミング予想には差があるが、恐らく次のトランプ政権の任期において起こることだろう。