11月5日のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ前大統領が再選を果たした。これから金融市場はトランプ氏の経済政策を織り込んでゆくことになるが、懸念されるのはインフレの再加速と金利上昇である。
トランプ氏勝利と金利上昇
大統領選挙ではトランプ氏が勝った。ここでも紹介したが何人かの機関投資家は事前にそれを予想してポジションを取っていた。
彼らの主なトレードは金利上昇を予想しての米国債の空売りである。新大統領のばら撒き政策がインフレを加速させると予想したからである。
スタンレー・ドラッケンミラー氏などは次のようにまで言っていた。
インフレは1970年代のレベルまで再燃する可能性もある。
そして実際に大統領選挙の前後で金利は上がった。アメリカの長期金利のチャートは次のように推移している。
金利上昇と株式市場
しかしここまではトランプ氏が何かを行なう前までの事前予想による相場である。11月7日のFOMC会合ではあまり大した発表はなかったが、パウエル議長は次のように言っていた。
短期的には大統領選挙が中央銀行の政策決定に影響を及ぼすことはない。
しかし原則として、政権や議会の提案する政策が徐々に経済に影響を及ぼすことはあるだろう。
パウエル氏の言う通り、ここからトランプ新大統領の政策が具体的になってゆく。
前回の記事でも述べた通り、金利上昇と株高は2016年のトランプ相場と同じ展開なのだが、金利上昇を的中させた機関投資家たちは今回、株価に関しては懸念を持っている。
2016年にはインフレは問題ではなかったが、今回はインフレが問題になっているからである。
インフレそのものが金利上昇に寄与すること、そして金利上昇が莫大な政府債務に利払いを発生させ、アメリカ政府は国債の利払いを新規の国債発行で賄わなければならなくなっていることから、トランプ氏の景気刺激がインフレを再発させれば国債価格が暴落し、金利上昇が株式市場を崩壊させるのではないかという予想である。
機関投資家の予想
実際、米国債の状況はかなり瀬戸際にある。金利上昇で既にアメリカ政府の借金への利払いは急増しているからである。
米国債への懸念を最初に持ち出したのはポール・チューダー・ジョーンズ氏であり、彼は今年の2月に大統領選挙が国債市場崩壊の引き金を引く可能性があると警告した。
その後機関投資家が次々に同じ予想を表明し、レイ・ダリオ氏は5年以内に米国債は暴落すると主張した。
金利上昇と米国債暴落が市場経済に危機を引き起こすという予想は一致している。問題は、それが今なのか5年後なのかである。
国債暴落はいつか
筆者の予想を書いておこう。筆者の予想では、ここからすぐに金利上昇が大幅な株価下落をもたらすことはない。むしろ年内の懸念は経済指標が減速し、景気後退懸念が再燃することによる株価下落だろう。大統領選挙で忘れがちだが、失業率の高止まりはまだそのままである。
だがその場合にもトランプ新大統領の景気刺激が来るだろう。
だから当面のトレンドは金利上昇と株高である。選挙前にある程度織り込んでいるから短期的な引き戻しはあるかもしれないが、1つ確実に言えるのは、金利が危機的水準まで上昇するよりも前に株式市場が国債暴落懸念で下落することはないということである。
だからこの問題で株価が下落するならば、それは金利上昇が危機的水準に到達してからということになる。金利が上がってから、その後に金利高が問題となって株価が下落するのである。それには少なくとも数ヶ月、長ければ1年以上かかる。
だから筆者は有望だと思って保有している個別株のポジションをこの問題で今手放すことはない。
まず最初に金利上昇と株高の時期があり、その後に金利上昇が問題となる時期が来るとすれば、それは基本的には2016年から2018年までのトランプ相場と同じシナリオということになる。
2016年にトランプ氏が最初に当選した後、市場は株高と金利上昇で反応したが、その後金利は上がりすぎ、パウエル議長の引き締め政策が2018年の世界同時株安を引き起こした。
つまり、金利上昇開始から株価の下落まで2年かかっている。
結論
金利上昇が最終的に株価を崩壊させるのかという問いに対する答えはイエスである。
だがそれは今すぐではない。まず金利が上昇しなければならない。失業率の高さを考えればアメリカ経済はかなり弱っており、トランプ氏がそれを持ち上げられるのかという問題がまず焦点になるだろう。
だがその後は2016年から2018年までのトランプ相場と韻を踏む。金利上昇と国債の発行過多が問題になるタイミングが来年から再来年の間に来るだろう。
そしてひとたび金利上昇が問題となり、国債価格が下落し始めると、その問題は2018年よりも大幅に深刻なものになる。
ジョーンズ氏を初めとして今年多くの機関投資家が警告を発しているアメリカの債務問題が、本当に問題となるタイミングはその時だろう。だからダリオ氏の5年以内という予想は恐らくかなり当たっているのである。