引き続き、The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏のSkagen Funds主催の講演である。今回は日本の政府債務と金融市場について語っている部分を取り上げたい。
日本の債務問題
ネイピア氏はこれまでの記事で、コロナ後の金利上昇は長期のトレンドで、莫大な政府債務に多額の利払いが生じている多くの先進国ではツケを払う瞬間がついに来ると予想していた。
アメリカとヨーロッパの話はもうしている。では日本はどうか? ネイピア氏は日本の話もしている。
ネイピア氏が注目しているのは、単に政府債務だけではなくその国の経済に存在するすべての負債の合計金額である。それを踏まえてネイピア氏は次のように言っている。
日本の債務はGDPの414%だ。
今のところは日本は逃げ切れているが、この問題を解決するには最終的にはインフレで債務を帳消しにするしかない。
借金と金利上昇
それはポール・チューダー・ジョーンズ氏も言っていたことである。
政府債務の問題は、金利がゼロである間は大した問題にはならない。どれだけ借金があっても利払いがないからである。
だがインフレ政策が本当にインフレを引き起こし、国債に利払いが発生すると、大国は急激に没落してゆく。レイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想していたシナリオである。
特に日本の債務の額は莫大であり、アメリカのように金利を5%に上げることさえ許されないだろう。債務がGDPの414%ならば、それらの債務に5%の金利が付けば利払いだけでGDPの20%以上になってしまうからである。
日本は低金利政策から逃れられない
だからネイピア氏は日本が低金利政策から逃れられないと予想している。実際、日銀の植田総裁も既にかなり苦労しているが、まだ何も始まってさえいない。
だからネイピア氏は次のように言う。
今後20年、日本の年金ファンドが金利を低く維持するために日本国債を買い支えなければならなくなったらどうする?
低金利を維持すること自体は可能である。日銀にでも年金ファンドにでも日本国債を買わせれば良い。だがその代わりに犠牲になるのがインフレ率と為替レートである。
つまり、ネイピア氏は円の下落が不可避だと考えているのである。
では投資家はどうすれば良いのか? ネイピア氏は次のように言っている。
ウォーレン・バフェット氏は頭が良い人物だ。彼は数年前に大量の日本円を借り入れ、日本企業の株式を買った。
国家が債務をインフレで帳消しにしなければならないときにはその国の通貨で借り入れをしてその国の株式を買え。これはマクロな投資戦略だ。それは現状とても上手く行っている。
バフェット氏はコロナ後に日本円を借り入れて三菱商事など日本の商社の株式を大量購入した。
「日本円を借り入れた」というところがポイントである。何故ならばアメリカの投資家にとって、借り入れた日本円を売って株式市場で株式を買うことは、日本円の空売りと株式の買いを同時に行なっていることと同じだからである。
そうすれば円建てで株価が上がる限り、日本円がどれだけ下落してもバフェット氏はダメージを受けない。
インフレと株式市場
だからバフェット氏もネイピア氏も円建てで見れば日本株は上がると考えているのである。
それは興味深い観点である。何故ならば、インフレで金利が上昇するとき、株式市場には2つのシナリオがある。
インフレを抑えられるほど急激に金利が上がれば、(インフレ調整後の実質の)株価にとってはマイナスになる。それは1970年代のアメリカの物価高騰時代における米国株の値動きであり、2022年に米国株が下落した理由でもある。
だが一方で、インフレで株価が上がった事例もある。例えばトルコである。何十パーセントものインフレを引き起こし、しかも十分に金利を上げなかったトルコでは、実質でも名目でも株価は上昇した。
つまり、ネイピア氏はこう予想しているのである。日本の政府債務はインフレで帳消しにされなければならないが、日本はインフレと通貨安をまともに抑えられるほどの利上げが出来ないので、日本株は上がる。
こう考えるとネイピア氏の以下の結論がなかなか恐ろしく聞こえるのである。
日本経済全体のインフレを引き起こすことは日本株にとってプラスになる。
ちなみにネイピア氏はS&P 500については買うなと言っている。理由は以下の記事を参考にしてもらいたい。
世界秩序の変化に対処するための原則