世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がFutureChina Global Forumで分散投資について語っているので紹介したい。
グローバルマクロ戦略と分散投資
ダリオ氏は2020年のコロナショックで政府が莫大な現金給付を発表してすぐにインフレの発生を予想した投資家であり、世界経済の動きを読んでトレードするグローバルマクロ戦略の第一人者だが、一方で分散投資を常に強調する投資家でもある。
ジョージ・ソロス氏が始めたグローバルマクロ戦略では、世界中の様々な金融資産の買い持ちと売り持ちを1つのポートフォリオの中に織り交ぜることがある。
だが多くの個人投資家にとって投資とはそういうものではないだろう。その点についてダリオ氏は次のように語っている。
人々は金融市場に投資する方法は単に株式を買うことだと思っている。そして株価の上下に影響される。彼らは分散の力を知らないのだ。
分散の力
分散の力とは何か。インフレで現金が危ないと言われてとりあえずNISAで株式を買っている人も、インデックスを買えば分散投資になると金融庁から言われて分散投資をやっているつもりになっているではないか。
だがダリオ氏の言う分散投資とは、金融庁の言う分散投資とは違う。ダリオ氏は次のように続けている。
分散の力とは、ポートフォリオの中で様々なものを一緒にしてバランスを取ることだ。
われわれのポートフォリオの中には債券もある。ゴールドもある。株式のパフォーマンスが悪い時にも債券がよくやってくれた。そうやってバランスを取る。
なぜ分散投資が良いとされるのか。ダリオ氏にとってその理由は明確である。ポートフォリオ内の1つの銘柄が一時的に下がっている時にも別の銘柄が上がってくれていれば、ポートフォリオ全体としてはパフォーマンスが安定するからである。
長期投資としてどれだけ優れた銘柄であっても、短期的に下がることがある。ポートフォリオが一時的にマイナスになることをドローダウンと言うが、分散投資はポートフォリオ全体でドローダウンになることを避けられるのである。
だから金融庁の言うような株式のインデックス投資はまったく分散投資ではない。株価インデックスの中身はすべて株式なので、株式市場が下落するサイクルでは中身はほぼすべて下落するからである。
本物の分散投資
この意味では、分散投資とは実は非常に難しいものである。単に株式と債券とゴールドを持てば良いというわけではない。経済サイクルによっては株式と債券が同時に上がり同時に下がる場合(金融緩和と金融引き締め相場)があり、株式とゴールドが同時に上がり同時に下がる場合(デフレ相場)があるからである。
だから例えば現在がインフレ相場なのかデフレ相場なのかを見分けることが出来なければ、株式とゴールドが分散になるのかならないのかが分からない。インフレ期には、株式は酷いパフォーマンスになるが、ゴールドは素晴らしいパフォーマンスになる。
結論
ダリオ氏は次のように纏めている。
わたしの投資の黄金則は、15個の互いに相関しない利益の源泉を作ることだ。
本当の意味で分散している銘柄を15個集めることができれば、株式市場が上がる年も下がる年も、安定して利益を上げることができるだろう。
グローバルマクロ戦略を創始したソロス氏も、著書『ソロスの錬金術』でグローバルマクロ戦略のポートフォリオの組み方について次のように語っているが、ダリオ氏の分散投資と同じ意味である。
1つの仮説にすべてを賭けるというのは、私にはめずらしい行為である。普通は、少なくとも部分的に矛盾する仮説に従って行動している。
原則として、妥当性を持つ仮説に基いてつくったポジションは手放さないことにしている。そして新しい仮説に基いて反対方向のポジションを追加する。その結果、調整する必要のある微妙なバランスを適宜調整できるようになる。
ソロスの錬金術