ヘイコック氏: 米国は債務危機を乗り切るためにドルを犠牲にし下落させる

引き続き、Von Greyerzのパートナーであるジョニー・ヘイコック氏のSFO Continuityによるインタビューである。今回はアメリカの財政問題とドル相場について語っている部分を取り上げたい。

米国債から投資家が逃げている

ヘイコック氏はこれまで、アメリカの問題を2点指摘していた。1つは政府債務が危機的状況にあること、もう1つは諸外国、特に東側諸国の中央銀行がドルの保有を避けてゴールドを買い漁っていることである。

アメリカではコロナ後の金利上昇で多額の政府債務に利払いが生じており、今こそ米国債を大量に発行しなければならないが、これまで米国債を買ってくれていた他国の中央銀行はドル資産を避けてゴールドに走っている。

さて、ヘイコック氏はこのアメリカの状況が過去のある有名な事例と似ていると主張している。

それは1971年のニクソンショックである。ヘイコック氏は次のように言っている。

1971年は転換点だった。

1971年ニクソンショック

戦後のアメリカはまだ金本位制度を維持していた。つまり、ドル紙幣は中央銀行へ持っていけばゴールドと換えてもらえた。

紙幣はもともとゴールドの預かり証だったのだから当然である。紙幣はゴールドと交換で受け取るものであり、ゴールドを(中央)銀行に預けた人はその代わりに紙幣を受け取り、紙幣さえ中央銀行に持っていけば預けていたゴールドを(当たり前だが)返してもらうことが出来た。

だが、ニクソン大統領はその預かっていたゴールドを返さないと言った。それがニクソンショックであり、金本位制度の廃止である。

政府が預かっていたはずのゴールドはもちろん政治家たちが使い込んでしまったわけだが、何も返ってこなくなった後も人々はこの無意味な預かり証を有り難く財布に大事にしまっている。それが今われわれが使っている紙幣の正体である。

さて、ニクソンショックの後、ドル相場はどうなったか。ヘイコック氏は次のように続けている。

ニクソン氏が金本位制を廃止した時、彼はこう言った。ドルは強くあり続けるから心配するな。

それは嘘だった。ドルは1971年以来、ゴールドに対して98%下落した。

ゴールドと比較するとゴールドが上がったのではないかという見方も出来るから、物価一般と比べるために消費者物価指数を使い、1971年1月を100としてドルの価値がその後どうなったかをグラフにすると、次のようになる。

このグラフこそがインフレ、つまり貨幣価値下落の意味である。インフレ政策を支持していた人は自分の資産の価値下落を支持していたのである。

インフレ政策の理由

ゴールドの預かり証であったものを、ゴールドが返ってこないゴールドの預かり証に変身させるとどうなるかと言うと、当たり前だがそのもの(つまりドル)の価値は暴落する。

しかしヘイコック氏は次のように問う。

だが当時何があって、ニクソン大統領は何故そうしなければならなかったのか?

当時はベトナム戦争があり、負債が増加していた。ドルは攻撃されていた。ニクソン氏はどうにかしなければならなかった。だからドルをゴールドと交換するという約束を停止した。

その時ニクソン氏はドルは強くあり続けるという嘘の約束をしなければならなかった。

アメリカは戦費調達に追われており、紙幣を印刷して米国債を買い支えなければならなかったのだが、ゴールドの預かり証は自由には刷れない。だからドル紙幣をゴールドの預かり証ではなくした上で自由に刷ったのである。

幸いなのはそれでも人々が何の意味もない紙切れを使い続けてくれたことである。それで本来急降下してゼロになるはずの紙幣の価値はなだらかな下落を何十年も続けることになり、それは今でも続いている(つまりインフレ)のである。

数学というのは素晴らしいもので、既に98%価値が下落した資産であろうともこれから更に98%下落することができる。可能性は無限大である。

ニクソンショックの再来

そしてここからが本題である。ヘイコック氏は次のように言っている。

だがニクソンショックの状況は今と似ていないか?

戦争があり、東側諸国の中央銀行はドルからゴールドへと資金を逃避させており、ドルは脆弱な状況にある。

債務はかさんでいて、米国政府は米国債の利払いを米国債発行で賄う自転車操業に追われている。米国債を買ってもらわなければならないのだが、他国の中央銀行は米国債から逃げている。

ではアメリカはどうするだろうか。ヘイコック氏は次のように続けている。

ニクソン大統領は壊れているシステムを救うために通貨を犠牲にしなければならなかった。

1971年にニクソン大統領がやったことは致命的で、為替相場、いやすべての金融市場に予期せぬ結果を生んだ。

誰も米国債を買ってくれないのであれば、自分でドルを印刷して買うしかない。

それが恐らくは長期的には避けられないドルの運命である。来月の大統領選挙がそのきっかけになると予想している著名投資家もいる。

ヘイコック氏は次のように結論している。

ドルは下がり続けるほかに選択肢がない。それが今の状況だ。

結論

筆者もヘイコック氏の結論に同意しているが、日本の投資家にとって難しいのは、日本円もまた同じ立場にあるということである。

ではどうするか。ヘイコック氏の上司にあたるフォン・グライアーツ氏は貴金属を奨めている。