ヘイコック氏: アメリカの財政問題はもう長くはもたない

引き続き、Von Greyerzのパートナーであるジョニー・ヘイコック氏のSFO Continuityによるインタビューである。今回は金相場とアメリカの財政問題について語っている部分を紹介したい。

ゴールドと米国の債務問題

金価格が上昇している。前回の記事では、ヘイコック氏はその理由に世界中の中央銀行、特に東側諸国の中央銀行がゴールドを買っていることを挙げていた。

では何故ゴールドを買っているのか。ヘイコック氏はその問題をアメリカの債務問題が迫っていることと結びつけて次のように言っている。

皇帝は裸だ。皇帝が裸だということが知れ渡ってしまっている。勿論アメリカのことだ。だから東側諸国の中央銀行は動いている。

ヘイコック氏はゴールドの外貨準備増加をアメリカの問題からの諸外国の逃避だと考えているのである。

アメリカの債務問題

ではアメリカの問題とは何か。ヘイコック氏は次のように言っている。

問題は2つある。1つは持続不能な債務だ。

アメリカではコロナ禍に行われた莫大な現金給付で政府債務が大幅に増加した上に、その現金給付がインフレを引き起こしたので金利が上がり、莫大な政府債務に多額の利払いが発生している。

アメリカの利払い費用をGDP比で見ると次のようになっている。

米国政府は今、この国債の利払いのために新たな国債を発行するという自転車操業を行なっている。

ドルを使った経済制裁

ヘイコック氏によれば、アメリカの問題はもう1つある。ヘイコック氏は次のように述べている。

もう1つはウクライナ侵攻以後のロシアに対する経済制裁だ。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、アメリカはロシアに対してドルを使った経済制裁を課した。ロシア関連のドル資産を凍結し、ロシアが国際的な決済を出来ないようにしたのである。

それだけならまだ良かったのだが、アメリカは当時ロシア制裁に協力的ではない無関係の国に対しても制裁をちらつかせながらロシア制裁に加担するように迫った。

それを受けて無関係の国々はこう思ったに違いない。ドルを持っていればアメリカの事情でいつでも資産を没収されかねない。

ヘイコック氏は次のように続けている。

それが意味するのは、アメリカはその気になれば誰の金でも盗めるということだ。だから当然東側諸国の中央銀行はドル建ての資産をゴールドに置き換えている。

事実、中国やインドなどのBRICS諸国やサウジアラビアなどの中東諸国はドルでの決済を減らしていっている。

そうすればこうした国々はドルを保有する必要がなくなる。ヘイコック氏によれば、それがドルからゴールドへの逃避に繋がっている。

ドルからの逃避とアメリカの債務危機

このドルからの逃避の問題とアメリカの債務問題は別々のものではない。何故ならば、ゾルタン・ポジャール氏が言うように、ドル離れは米国債離れを意味し、米国債の価格下落に繋がるからである。

ドル離れが債務問題を悪化させ、債務問題の悪化がドル離れを生む。これはジョージ・ソロス氏が『ソロスの錬金術』が説明している再帰性によるバブル崩壊の図式である。

ソロス氏によれば、再帰的な(自己強化的な)トレンドは自らを強化しながら、その資産が逆に売られすぎの水準になるまで突き進んでゆく。

加速するアメリカの債務問題

現在のアメリカの状況についてヘイコック氏は次のように言っている。

優れた歴史家のナイル・ファーガソン氏の最近の発言だが、歴史を振り返れば、大国において負債への利払いが国防費を上回るとき、もうその国は長くはもたない。

そしてそれが今のアメリカの状況だ。

そしてヘイコック氏によれば、それこそが金価格が異常に上がっている理由だという。金価格は次のように推移している。

ヘイコック氏は次のように説明している。

金利が上がっているのに、金相場はそれでも上がり続けている。金相場は金利が下がる時に調子が良いはずなのにだ。だが今回はそうなっていない。

金価格はコロナ後のインフレで上がったが、その後金利が上がってインフレが減速する局面においてもそれほど下がらず、すぐに上昇トレンドを取り戻した。

ヘイコック氏はこう続けている。

それがどうしてか考えなければいけない。そしてその理由は、債券市場がアメリカは本当の問題を抱えていると気付いたからだ。GDPの7%の財政赤字、125%の債務、それは持続不能だ。

東側諸国の中央銀行はそれに気付いた。そして自分がゴールドの外貨準備を持っていないことに気付いた。だから彼らは猛烈な勢いでゴールドを買っているのだ。

ゴールドについては以下の記事も参考にしてもらいたい。


ソロスの錬金術