引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者レイ・ダリオ氏のBloombergによるインタビューである。今回は11月に迫るアメリカ大統領選挙と株価の関係について語っている部分を紹介したい。
米国経済と大統領選挙
アメリカのインフレは収まってきたが、米国経済の問題が景気減速なのかインフレの根強さなのかについては意見が分かれている。
だが何度も言っているように、経済のこれまでの動向はもはやあまり重要ではない。何故ならば来月にはアメリカ大統領選挙があるからである。
ドナルド・トランプ前大統領とカマラ・ハリス副大統領のどちらが勝つにしても、新たな経済政策が発表され、それが経済と金融市場の新たなトレンドを決める。
だから投資家はそろそろ大統領選挙後のアメリカ経済に目を向けなければならない。
トランプ氏の関税政策
ダリオ氏はトランプ氏とハリス氏の経済政策について聞かれて次のように言っている。
トランプ氏の経済政策はより古典的な資本主義的政策だ。国粋主義的で、保護主義的で、規制を緩和し、企業や富裕層に減税する。
また、経済政策で両候補が異なるのは関税についてである。トランプ氏は中国などに対して大幅な関税を課すと主張している。
アメリカの企業も外国で製品を作ると関税を掛けられることになり、トランプ氏はアメリカ国内で製品を作るべきだと主張しているのである。トランプ氏は国内の雇用を増やそうとしている。
一方でハリス氏はこれを保護主義的だと批判している。この論点についてはハリス氏の方が経済学の主流派に近く、自由貿易を信奉する多くの経済学者でトランプ氏の関税政策を支持する人はほとんどいないだろう。
しかしダリオ氏はこれに対して意外なことを言っている。彼は次のように述べている。
トランプ氏は関税を上げるという論点に関して良いことを言っている。
関税は昔は政府にとって大きな収入源だった。わたしの計算によれば、トランプ氏が関税を上げれば年間8,000億ドルの収入になる。
それは例えば、資産税など他に提案されている税制がおよそ1,250億ドルの収入にしかならないのと比べれば大きな金額だ。
一方で、関税は輸入品に課される税金なので、アメリカの消費者にとっても物価上昇に働くということはダリオ氏も認めているのだが。
株価にとってはどちらが良いか
さて、投資家にとってより重要なのは、株価にとってどうかということである。現状、米国株は史上最高値を更新し続けている。
注目されるのは企業や投資家に対する税制である。トランプ氏は大統領時代に行なった法人減税の継続を公約にしている一方で、ハリス氏は継続させず、法人税を上げるとしている。
また、本当にやるのかどうかは不明だが、ハリス氏は株式などの含み益に対する課税を公約にしており、様々な方面から批判されている。
ダリオ氏は株価への影響について次のように考えているようだ。
金融市場にとってはどうか。金融市場に課税すれば資産価格は下がる。投資家は税引き後のリターンを求めているからだ。
だから市場にとってはハリス氏の公約よりトランプ氏の方が良いだろう。
金融市場にとってどちらが良いかを話しているだけであって、どちらの候補が良いかを話しているわけではないが。
結論
ハリス氏の政策についてはトランプ氏の支持者であるジョン・ポールソン氏が痛烈に批判していた。
ダリオ氏も基本的には同じ考えらしい。米国株はそんなことは気にせず高く上がっているが。
法人増税と含み益課税については筆者もその通りだとは思うが、少なくとも法人増税については騒がれているほどの影響はないと筆者は見積もっている。
だが株価にとってハリス氏よりトランプ氏の方が良いのは確かだろう。しかしそれよりもインフレがどうなるのかの方がやはり重要なのである。