ジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを創設したことで知られるジム・ロジャーズ氏が、World Knowledge Forumでドル相場とコモディティ相場について語っている。
「安全資産」ドル
コロナ後の現金給付が引き起こしたインフレでもドル相場は下がらなかった。
インフレとは紙幣の価値が下がることであり、アメリカでは一時9%ものインフレになったにもかかわらず、ドルはむしろ円などの通貨に対して上がった(円が下がったという事実もあるが)。
ロジャーズ氏も通貨を選ぶならドルだと常々言っている。
市場が混乱に陥ればドルが上がるからだというのが理由である。中国好きのロジャーズ氏だが、人民元は選択肢に入らないらしい。
ロジャーズ氏は司会者に、ドルはこれからも安全資産であり続けるのかと聞かれて次のように答えている。
投資の話をするとき、安全という言葉を使うことはない。安全なものなど何もない。あるなら教えてほしい。
そんなものはない。安全な投資などない。
株式の長期投資を安全な投資だと考えているNISAな人々に聞かせてあげたい言葉である。ドルでさえ安全ではないのに、株式がどうして安全だろうか。意味が分からない。
ドルの抱える問題
さてロジャーズ氏はアメリカが問題を抱えていることを当然認識している。
ドルはいくつかの問題を抱えている。その1つは世界的なドルからの資産逃避である。
ロシアのウクライナ侵攻後にアメリカがドルを使った経済制裁を濫用しようとしたことで、中国やインドなどのBRICS諸国や中東諸国がドルの保有を減らそうとしているのである。
ドルがインフレにもかかわらず為替レートを維持しているのは、ドルが基軸通貨であり、ドルを保有しようとする国が多く存在したことが理由である。
しかしそれが少しずつとはいえ崩れつつある。
ドルよりもコモディティ
だからロジャーズ氏は、通貨を選ぶならドルだが、そもそも通貨よりも貴金属やエネルギー資源などのコモディティを好んでいる。
コモディティ投資の入門書である『商品の時代』も書いているロジャーズ氏は、コモディティの専門家でもあるのである。
ドルが問題を抱え、日本円もまったく信用できない今の状況で、何を持てば良いのか。
真っ先に名前が上がるのは貴金属、それもゴールドだろう。だがロジャーズ氏は次のように言っている。
史上最高値にあるものに投資をすることは好まない。
コモディティでもそうだ。ゴールドは市場最高値にある。金価格がここまで高くなったことはない。
ゴールドはインフレで上がる資産のはずだが、アメリカのインフレ率下落局面においても上がり続けている。
その理由の一部はジョン・ポールソン氏が解説している。
ゴールドよりシルバー
金価格の上昇には理由があり、ゴールドも悪くない選択肢だとは思うのだが、ロジャーズ氏はより割安な資産を奨めている。
ロジャーズ氏は次のように述べている。
貴金属に投資をするならシルバーに投資すべきだ。
わたしはシルバーを保有している。今の値段でもっと買ってもいい。
銀価格は市場最高値から40%も下落している。金価格は今が市場最高値だ。
銀価格の長期チャートは次のようになっている。
最近少し上がったので最高値の4割とはいかないが、史上最高値を更新しているゴールドと比べて割安であることは間違いない。
そして1970年代のインフレ時代にはシルバーもゴールドと同じくらい上がったのである。
ドルも円も信用できない時代において、人々は代わりのものを探し求めるだろう。ロジャーズ氏は次のように述べている。
世界が混乱に陥れば、多くの人が貴金属を買い求める。わたしのような田舎の年寄りはいくらかのシルバーをクローゼットに、いくらかのゴールドをベッドの下に隠しておくべきだと知っている。
他のコモディティ
だが一方で、コモディティには他のものもある。ロジャーズ氏は次のように続けている。
だが他の候補もある。綿、小麦、原油など他のコモディティも選択肢だ。わたしならほとんどの国の株式よりもコモディティを選ぶ。
綿と小麦も長期チャートを載せておこう。まずは綿である。
次は小麦である。
これらの銘柄は完全にインフレを忘れた価格で推移しているので、スタンレー・ドラッケンミラー氏のようにインフレ再燃を予想する投資家ならば良い投資機会になるだろう。
そうでなくとも、この水準で綿や小麦を買っておけば、長期的にはドルや円よりは信用できるのではないか。特に円は長期的にはもうどうにもならないだろう。
結論
それでも人々はドルや株式に群がっている。その理由は、価格が上がっているからである。
だがロジャーズ氏はそうした人々について次のように言っている。
安く買って高く売れと両親に教えてもらわなかったのか。
コモディティ投資は一般の投資家に馴染みにくい側面もある。何処にもコモディティ投資の基本が書かれていないからである。
ロジャーズ氏の『商品の時代』はやや古いコモディティの入門書なのだが、コモディティについて本を書く人が少ないために今でもこれがお勧めの入門書なのである。
商品の時代