アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、9月の雇用統計についてTwitterでコメントしている。
9月の米国雇用統計
金曜日に発表されたアメリカの雇用統計では、労働市場が予想外の堅調となり、景気減速からの利下げを織り込んでいた金融市場では金利上昇・ドル高となった。
今回の雇用統計についてサマーズ氏は次のように言っている。
今日の雇用統計は、アメリカ経済が高金利の環境下にあり、利下げをするには注意を要すると考えるのが責任ある金融政策ではないかという考えを確認するものだ。
債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏がこのままインフレは減速すると予想している一方で、サマーズ氏は常にインフレ再燃の可能性を警告し続けてきた。
9月の雇用統計についてはサマーズ氏に軍配が上がった形となる。
アメリカは利下げできるのか
アメリカでは9月にFed(連邦準備制度)が0.5%の利下げを行なったばかりである。市場では利下げ幅は0.25%か0.5%かと騒がれていたが、パウエル議長は結局0.5%の利下げを選んだ。
だが今回の強い雇用統計を見た上でサマーズ氏は次のように言っている。
結果論で言えば、9月の0.5%利下げは間違いだった。だが大きな影響を持つものではない。
何故そう言えるかと言えば、重要なのは1回の利下げ幅ではなく、最終的に何処まで利下げするかだからである。
そしてサマーズ氏の懸念点もまさにそこにある。何故ならば、Fedは来年末までに政策金利を3.25%まで利下げすると主張しており、サマーズ氏によれば、そこまで金利を下げてしまえばインフレが再燃するからである。
インフレ再燃か景気後退か
サマーズ氏の論点は、財政支出の規模がコロナ前に戻っていない以上、その分金利は高く保たなければ財政支出の増加分だけインフレになるということである。
だから金利はFedの言うほどには下げられず、したがってドルもそれほどは下がらないとサマーズ氏は予想しており、それは今のところ当たっている。
アメリカ経済は強いデータと弱いデータを繰り返している。だが重要なことは1つしかない。インフレが減速するならば経済も減速し(ガンドラック氏のシナリオ)、経済が減速しないならインフレも減速しない(サマーズ氏のシナリオ)。
結論
20世紀最大の経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏が著書『貨幣論集』で言っていたことを何度でも引用しよう。
失業はインフレが加速をやめたときに、過去の誤った政策の帰結として、非常に残念だが不可避の結果として出現せざるをえない。
だからサマーズ氏の次のように言っている。
今回のデータから、「ハードランディング」とともに「ノーランディング」がFedが考慮しなければならないリスクだと言える。名目賃金の上昇率はコロナ前の水準を大きく上回っており、減速しているようにも見えない。
ノーランディングとは景気が落ちて来ず、インフレも下がらないシナリオである。ハードランディングかどちらかしかないのである。
これまで5%の高金利にもかかわらずインフレが根強かった事実は、少しでも緩和すればアメリカ経済はインフレ転換してしまうという状況を示している。
そして11月には新大統領が(どちらになるにしても)借金によるばら撒き政策を発表するだろう。だからスタンレー・ドラッケンミラー氏は米国債を空売りしているのである。
貨幣論集