ドラッケンミラー氏が米国債空売り、アメリカのインフレは10%を超えて再燃する可能性

ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを長年運用したことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏がついに米国債の空売りを始めたようだ。Gregory Zuckerman氏など会議の参加者がGrant主催の会議での発言を伝えている。

ドラッケンミラー氏の米国経済見通し

ドラッケンミラー氏は、早くも2021年に世界的な物価高騰を予想していた著名投資家の1人である。

その後アメリカのインフレ率は9%まで上がってから2%台まで下落したが、ドラッケンミラー氏は今後の米国経済についてどう考えているのか。

アメリカ経済は今のところ緩やかな減速を続けているが、11月には大統領選挙も迫っており、新大統領の政策次第では経済のトレンドも変わる可能性がある。

ドラッケンミラー氏は大統領選挙について次のように語っている。

カマラ・ハリス氏にもドナルド・トランプ氏にも投票しない。

その理由は、ハリス氏もトランプ氏もアメリカの財政問題に対処しそうにないことである。

アメリカでは一般市民はどちらが大統領になるかで盛り上がっているが、投資家たちはどちらでもばら撒き政策ではないかと冷めた目で見ている。トランプ氏はチップや年金への非課税を訴え、ハリス氏は低所得者への現金給付を公約にしている。

債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は、両候補は外交政策以外はほとんど変わらないと言っていた。

アメリカの財政問題

アメリカでは今、インフレで金利が上がったことで、これまでに積み上げられた莫大な政府債務に多額の利払いが生じている。

それで米国政府は国債の利払いのために国債を発行する自転車操業に追いやられている。国債は大量に刷られ、著名投資家の多くは国債の価格下落を懸念している。

今の世代のばら撒きによって将来の世代が経済危機に直面することに、かつてドラッケンミラー氏は激怒していた。

だから彼はハリス氏もトランプ氏も支持しないのである。

米国債空売り

ドラッケンミラー氏は次のように述べている。

超党派による財政的無責任が迫ってきている。

金融市場ではこれまでのところ、景気減速で金利低下がトレンドとなっている。アメリカの長期金利は次のように推移している。

だが新大統領が借金を増やしてばら撒きを行えば、政府支出と国債発行の両方が金利を上昇させ、国債価格を下落させる。

だからここの記事でも大統領選挙を境にした金利のトレンド転換こそが年末にかけての最大のトレードテーマだと主張してきた。

そしてドラッケンミラー氏も同じように考えているようである。ドラッケンミラー氏は次のように述べている。

ポートフォリオの15%から20%を米国債(※誤字修正しました)の空売りに当てている。

ついにドラッケンミラー氏は米国債の空売りを開始したようだ。ドラッケンミラー氏は去年日本の利上げを予想して日本国債を空売りし、成功させている。

米国債空売りとインフレ再燃

ただし、ドラッケンミラー氏は単にここ数ヶ月の低金利トレンドの転換だけを考えているわけではないらしい。

ドラッケンミラー氏はもっと大きなことを考えている。彼は次のように述べている。

インフレは1970年代のレベルまで再燃する可能性もある。

1970年代は、アメリカのインフレ率が最大14%台まで上昇した時代である。

ドラッケンミラー氏は、11月のアメリカ大統領選挙でインフレ率が2022年の9%を超えて再燃してゆくシナリオまで頭に描いているらしい。アメリカのインフレ率は次のように推移している。

ポジションの規模

ドラッケンミラー氏が考えているのはインフレ第2波のシナリオである。そう考えると全体の20%という米国債の空売りポジションはむしろ控え目に見える。

ドラッケンミラー氏は、かつてジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを運用していた時、イギリスのポンド危機を予想してポンドを空売りしようとしていたが、彼が取っていた10億ドルの空売りポジションを見てソロス氏に次のように言われた逸話を『新マーケットの魔術師』の中のインタビューで語っている。

それでポジションのつもりか?

だから今回の20%の米国債空売りポジションについてもドラッケンミラー氏は自分で次のように言っている。

ジョージが聞けばもっと大きなポジションにするべきだったと叱責するだろう。

ポジションの規模、特に自信がある時に大きく賭けるこことは、ドラッケンミラー氏のような大物でも難しい問題なのである。

結論

また、今年のドラッケンミラー氏は個別株投資でも大きく成功している。ドラッケンミラー氏の個別株最大ポジションであり、筆者も推奨しているAI銘柄のCoherentは大きく上昇している。

また、今回の会議ではドラッケンミラー氏の個別株第4位で遺伝子検査の会社であるNateraにも言及している。Nateraは今年株価が倍になっているが、ドラッケンミラー氏は「今でも大好き」だという。

また、他の国については次のように述べている。

習近平氏がトップにいる限り中国への投資に興味はない。

日本は大好きだ。アルゼンチンは素晴らしい指導者を持っており、素晴らしい投資機会となっている。


新マーケットの魔術師