引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のブログ記事を紹介したい。
中国の不動産バブル崩壊
中国株が急上昇している。前回の記事ではダリオ氏がその理由を解説していた。
中国はもう3年もの間、巨大不動産バブルの崩壊プロセスにある。中国人はバブル期の日本人のように、不動産価格は長期的に上昇するばかりで下落することはないと信じ込んでいたが、そのバブルが3年前についに崩壊したのである。
中国株はその後3年間下落を続けていたが、先月から大幅上昇している。上海総合指数のチャートは次のようになっている。
中国株上昇の理由
この急激な株価上昇は何が原因なのか。先月、習近平氏率いる中国政府は、不動産バブルに対処するための景気刺激案を発表し、ロイターによればそのためにGDPの1.5%にあたる約2兆元の国債を発行するとされている。
中国の不動産バブル崩壊による損失はGDPの1.5%より遥かに大きいので、それだけではバブル崩壊に対処できない。ただ、市場はこの動きが中国政府がバブル崩壊に対処するために本腰を入れ始めた兆候だと見ているのである。
さて、では中国政府はこの経済危機を乗り越えることができるのか。ダリオ氏は次のように述べている。
中国は今、美しい信用縮小を実行することで債務危機に対処し、債務負担を可能な限り削減するか分散させ、債務危機を脱出して創造性を取り戻すことができるのか、あるいは債務危機を尾を引く形で残して日本が経験したような経済的・心理的停滞を引き起こすのかの分かれ道にある。
中国の不動産バブル崩壊は様々な意味で日本のバブル崩壊に近い。だから中国も日本のように失われた20年に突入するのではないかと多くの人は考えているわけである。
バブル崩壊に対処できるか
ダリオ氏は、そうならないために中国に金融緩和を奨めていた。
癌となっている債務を縮小させる(デフレ的)一方で、金利低下によって債務負担を減らす(インフレ的)やり方でバランスを取りながら債務に対処してゆく方法をダリオ氏は中国に奨めていた。
ただ、今回はより踏み込んだ発言をしている。ダリオ氏は次のように述べている。
それはすべて、中国の政治家が質の悪い債務を再編(つまりゾンビ企業を排除)し、同時に金利をインフレ率や名目経済成長率よりも低く抑えるか、それが出来なければマネタイズによって金利を下げ、通貨の価値を下落させて債務を実質的に減らすことが出来るかどうかにかかっている。
筆者としては「通貨の価値を下落させて」の部分に着目してしまう。何故ならば、それはまさに今日本がやっていることだからである。
中国のバブル崩壊の結末
中国は今回約2兆元の国債を発行すると報じられていて、それをダリオ氏は正しい一歩だと評価している。
国債は財政支出に使われ、財政支出は民間や地方政府の債務負担を減らすだろう。つまり、中国経済に存在する莫大な債務が中央政府の債務に転換されてゆくわけだが、これはリーマン・ショック後にアメリカが行なったのと同じ方法である。
それでアメリカの民間の債務は急減したが、その代わり政府債務が急増し、金利が上がったいま莫大な国債に大規模な利払いが発生してアメリカ政府は危機に陥っている。
また、ダリオ氏は通貨を下落させて債務を減らすと言うが、まさにそれは日本が今やっている方法であり、そのお陰で日本人は輸入物価上昇に苦しんでいる。
ダリオ氏が言う「美しい信用縮小」とはそういうものなのだろうか。それはつまり、中国経済も日本やアメリカが今辿っている道を辿るしかないということなのだろうか。
かつて日本のバブル期に「日本は世界一の経済大国になる」と誰もが信じていた頃、日本のバブルが崩壊しかかった時も日本政府は介入によってバブルをどうにかしようとしていた。
あのジョージ・ソロス氏でさえも『ソロスの錬金術』のなかの投資日記に次のように書いていた。
市場が暴落しそうになったとき、大蔵省から電話が入っただけで金融機関は姿勢を改めたのである。
この規模のバブルが爆発することなく軟着陸に成功した例は過去にない。当局は日本の債券市場の暴落を防ぐことはできなかったものの、株の暴落を阻止することはできるかもしれない。
もし当局が成功すれば、史上初の出来事となる。つまり、金融市場が社会の利益のために操作される新しい時代の幕開けとなる。
だがそんな時代は来なかった。
アベノミクスが副作用をあらわにする前に数年間株式市場を上昇させたように、金融緩和と財政刺激を使えば、中国も何年かの間株価を回復させることは可能かもしれない。
だがそれが結局日本のように自国通貨の暴落と金利の上昇に繋がるとしたら、それは果たして解決と言えるのだろうか。
ソロスの錬金術