アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューでアメリカの利下げについて語っている。
アメリカの利下げ開始
米国時間9月18日、アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は物価高騰後初めての利下げを行なった。
会合前には0.25%利下げか0.5%利下げかが話題になったが、結局0.5%の利下げになった。
トレーダーはどちらになるかで大騒ぎしていたが、サマーズ氏は次のようにコメントしている。
今回のFOMC会合は本来注目を浴びるべき以上に注目されすぎていた。利下げをするのは明らかだったし、それが今後も続くというのも明らかだった。
来月や12月にではなく今月にいくら利下げされるのかというだけの問題は、結局は経済に影響を及ぼさない。
会合の結果がより長期の金利にほとんど影響を与えなかったことからも分かるだろう。
サマーズ氏の言う通り、1回の会合での利下げ幅はそれほど重要ではない。今利下げすれば後での利下げ幅が減るだけであり、今利下げしなくても後で利下げしなければならなくなるからである。
だから長期的に金利がどうなるかにはほとんど影響を与えない。
アメリカの金利見通し
ともかくアメリカは利下げを開始した。金利は今後どうなってゆくのか。
今後の利下げについては、サマーズ氏はFedに対して異論があるようである。
特に問題となるのはサマーズ氏がいつも持ち出す中立金利である。中立金利とは、経済にとってプラスにもマイナスにもならない、高すぎず低すぎない金利水準のことである。
サマーズ氏は次のように述べている。
中立金利がFedが信じるほど低いとは思わない。Fedは中立金利の想定をコロナ前から0.4%上昇させただけだ。
Fedはコロナ前と変わらず金利は最終的には2%台に落ち着いてゆくと考えている。
金利は高止まりする
しかしサマーズ氏はコロナ前とコロナ後では状況が違うと考えている。
サマーズ氏は次のように述べている。
だがコロナ後に国民の資産は増え、財政赤字と政府債務は大きく増加し、環境問題やAIやエネルギーへの投資が増加している確かな兆候も見られている。
貯蓄の減少と投資の増加を示すこうしたトレンドを考えれば、実質中立金利は上がったと考えるべきだ。
一番重要なのは財政赤字の拡大である。アメリカの財政赤字は今でもコロナ前の水準には戻っていない。
それはより多くのお金がばら撒かれているということであり、当然その分インフレ圧力は増えていることになる。だからその分金利を上げなければインフレを打ち消せないというのがマクロ経済学者サマーズ氏の理屈である。
だからサマーズ氏は次のように言う。
インフレが2%に落ち着くという予想が妥当だとしても、インフレの下ぶれが懸念されたコロナ前までの経済とは違い、現在ではインフレ再燃のリスクの方が大きいと思う。
アメリカは利下げできるのか
アメリカの金利はどうなってゆくのか。最新のデータでは、市場は年内にあと0.75%の利下げを想定しており、来年末までには1.75%(つまり来年に1%)利下げされて政策金利は3%になると予想されている。
だがそれに対してサマーズ氏はこう言っている。
こうしたことを考えると、中立金利は4%台だというのがわたしの予想だ。
政策金利は現在4.75%である。サマーズ氏の意見が正しければ、利下げは年内で終わってしまい、来年も利下げを続ければ金利の下げ過ぎということになってしまう。
サマーズ氏は金利を下げ過ぎてはいけない理由について、次のように説明している。
金融政策は人々やFedが言うほど引き締め的ではない。それがこれまで経済が強かった理由だ。きちんと計れば金融政策がそれほど効いていなかったのだ。
政策金利が5.25%まで上がっても景気後退が来ていない。それは逆に言えば、金利を下げると簡単に経済は過熱してしまうということではないか。
結論
ということで、サマーズ氏の金利の読みは、市場予想と大きく異なるものとなっている。
サマーズ氏は次のように結論している。
Fedが自分で考えているほどの利下げを行なってしまえば、インフレが上昇するリスクはかなり高い。
また、ここに書いた要因以外に、何より今年のアメリカには大統領選挙がある。どちらが当選するにせよ、利下げのやり過ぎに新大統領のばら撒きが重なれば、来年のアメリカ経済はどうなるか。
経済が過熱すると予想するならば、金利(特に長期の金利)は上がると考えるべきだろう。
米国債の発行過多による金利上昇シナリオもある。
30年物国債の金利は次のように推移しているが、これが大統領選挙の前後あたりのタイミングで上昇に転じるシナリオが、今一番大きなマクロのテーマだろう。