レイ・ダリオ氏: 中国の不動産バブル崩壊は日本のバブル崩壊より酷い

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がBloombergのインタビューで、不動産バブルが崩壊している中国経済について語っている。

中国の不動産バブル崩壊

ダリオ氏は次のように切り出している。

中国では今深刻な問題が生じている。

中国経済は絶賛バブル崩壊中である。その始まりである不動産ディベロッパー恒大集団の実質破綻がニュースになったのはいつのことだったか。2021年である。

それからもう3年が経っているが、中国のバブル崩壊はまだ終わっていない。上海総合指数のチャートは次のようになっている。

日本の読者にどれだけ知られているか分からないが、中国の株価は3年間落ち続けているのである。

バブル崩壊は終わるのか

経験ある投資家なら知っていることだが、下落相場は意外と長い。2008年のリーマンショックでも天井から底まで1年半かかっている。

そしてバブル崩壊は、発生していたバブルの規模が大きければ大きいほど崩壊に時間がかかる。世界2位の中国経済のかなり大きな部分が崩壊したのだから、後始末にも時間がかかるというわけである。

ダリオ氏は次のように述べている。

中国の人々は資産の70%を不動産にしていたが、不動産価格は下落した。株価も下落した。給料も下落した。

それで彼らは支出をしていない。先行きを不安に思っており、ただ現金を貯めている。

デフレの状況下では、現金は比較的良い資産クラスだ。それが中国の家計と企業の置かれている状況だ。

不動産バブルの崩壊というところも含めて、まるでバブル崩壊後の日本ではないか。

また、日本でもそうだったが、中国の不動産バブルには政府当局が一役買っている。中国では地方政府がGDPを伸ばすために不動産を故意にバブルにさせていたからである。ダリオ氏はこう続けている。

一方で、政府側にも問題がある。中国では政府支出の83%は地方政府によって行われる。そして地方政府はその費用を不動産の売却によって賄っている。

中央政府の負債が問題となっている日本やアメリカと違い、中国では地方政府の債務が問題なのである。

中国経済の懸念点

ダリオ氏は次のように述べている。

この状況は1990年の日本の状況よりも厳しい。切り抜けるためには債務の再編が必要となる。

つまりは借金の返済を一部諦めて、貸した側にはお金が返ってこないことを受け入れるしかないということである。

日本のバブル崩壊も日本経済に失われた20年を生み出したのに、それよりも深刻な中国のバブル崩壊はどうなってしまうのか。

しかもダリオ氏は懸念点はそれだけではないと言う。問題は、習近平氏が率いる中国共産党の指導部である。

中国経済の発展は鄧小平氏がトップだった時代に資本主義的なシステムを取り入れたことが発端であり、ダリオ氏などの西側の投資家は鄧小平氏を称賛している。

だがバブル崩壊の最中、2022年の新体制から習近平氏は資本主義寄りの政治家をほとんど排除してしまったのである。

鄧小平氏を称賛するダリオ氏は、今でも中国に資本主義の精神が残っているのかどうかを心配している。彼は次のように続けている。

鄧小平はお金を稼ぐことは素晴らしいことだと言った。中国では今でもお金を稼ぐことは素晴らしいことだろうか?

共産主義は豊かな資本主義者を嫌う。Alibaba創業者のジャック・マー氏が迫害されたのも、恐らく共産党の政治家たちと何かあったのだろう。

だが優れた起業家を追い出すような国に経済発展はない。日本のバブル崩壊よりも厳しい状況で中国に共産主義が戻ってくるならば、中国経済は日本の失われた20年より酷い状況になるのではないか。

ダリオ氏はこう続けている。

中国には素晴らしい技術革新がある。比べられるのはアメリカだけだ。ヨーロッパは中国にまったく及ばない。

だがその方向性を政府が先導している。それでも起業家精神は残っているだろうか?

中国株の推移見通し

中国が失われた20年に突入するとすれば、株価は当時の日本と同じようになるだろう。つまり、直近3年の株価下落は始まりに過ぎず、その後20年株価は低迷するということになる。

ダリオ氏自身はどうしているのか。インタビューの司会者からBridgewaterが中国への投資を減らしていることを指摘されて慌てて次のように答えている。

今わたしはBridgewaterのポジションについて語る立場にない。

だがその対応が強硬過ぎたと感じたのか、その後に次のように付け足している。

われわれのポートフォリオでは少しのお金が中国に投資されている。現在の局面を通して中国とともにあり続けるだろう。

ダリオ氏が抱える懸念点とこの反応を見ると、どうもダリオ氏は失われた20年シナリオを予想しているのではないかと想像する。

結論

細かい部分は異なるが、中国ではやはり日本のバブル崩壊と似た状況(あるいはその大規模版)が起きているようである。失われた20年の共産主義バージョンは来てしまうのだろうか。

こうした話を聞いていると、日本のバブル崩壊の時が思い出される。日本でも日本政府は必死でバブル崩壊を止めようとしていた。

世界屈指のヘッジファンドマネージャーであるジョージ・ソロス氏が著書『ソロスの錬金術』の中に当時の投資日記を書いており、次のように書き残している。

日本の株は、翌朝のロンドン市場で大幅な安値で取引されていたが、日本市場の取引が始まる前に、大蔵省がどこかに何本か電話を入れたために売り注文は奇跡的に姿を消し、大規模な機関投資家がそろって積極的な買い手に変身したのである。

だが政府の作り出したバブルは最終的には崩壊するしかなかった。今の中国を日本人は笑うだろうが、実際には日本は今も同じ過ちを繰り返している。

日銀の量的緩和のことである。本当に人間とは学ばない生き物なのだと思う。


ソロスの錬金術