レイ・ダリオ氏: 莫大な政府債務のせいで日本の円安とインフレは止まらない

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がBloombergのインタビューで日本の債務問題について語っている。

ダリオ氏の歴史研究

ダリオ氏はコロナ後に先進国政府が現金給付を決定すると、すぐに過去の覇権国家に関する著書を書き始めた。

それは2020年だったが、ダリオ氏はその時点で2021年からの物価高騰を予想していた。だから紙幣印刷でインフレを引き起こして衰退していった過去の大国について研究し、著書『世界秩序の変化に対処するための原則』に纏めたのである。

誰でも知っている通り、国家は隆盛して衰退する。永遠に栄え続ける国はない。国家には寿命があり、人間が歳を取ればシワが出てくるように、国家に寿命が近づくときに出てくる兆候がある。

政府債務と国家の寿命

それは債務の増加とインフレである。ダリオ氏は次のように述べている。

債務が大きく増加している。借金は途方もない金額になっており、しかもそれは増え続けている。

それは日本もアメリカも例外ではない。

それの何が問題なのか。ダリオ氏の研究によれば、一度経済的に栄えた国は、ほとんど例外なく借金に頼るようになり、政府債務をどんどん増やしてゆき、最終的には紙幣印刷でインフレを引き起こして衰退してゆく。

それが例えば大英帝国やオランダ海上帝国が衰退していった理由である。歴史を振り返ればほとんど例外はない。ではどうして日本やアメリカがそうではないと今の人々は言い切れるのだろうか。

先進国の債務問題

例えば日本の政府債務はGDPの252%に達している。簡単に言えば、支出するすべてのお金を2年半借金返済に費やさなければ返せない借金だということである。

誰でも分かる通り、この金額は実質的に返済不可能である。そこでダリオ氏は、何処かで聞いたような台詞を言っている。

だが誰かの借金は誰かの資産だ。

これを聞いて日本の読者が思い出すのは、借金をしているのは政府であって国民はお金を貸している側で、国民には多額の資産があるから政府債務は問題ないという自民党の政治家の台詞ではないか。

確かに彼らは正しい。ダリオ氏は次のように言っている。

デフォルトはない。勿論日本はデフォルトしない。

だが政府債務が多額で、それが国民に多額の資産があるという理由で問題にはならず、かつデフォルトをせずに借金が返済されるとすれば、それはどういう意味か。

日本政府の借金は国民の資産によって返済されるから大丈夫だという意味である。

インフレ主義の結末

それ以外に「国民に資産があるから政府債務は大丈夫だ」そして「日本はデフォルトしない」という言葉の意味があるだろうか。日本人には自分が何を支持しているのか理解する頭がないのである。インフレ政策を支持した結果インフレになって怒った時のように。

インフレ政策にはインフレと書いてあるではないか。馬鹿なのか。

だが実際にはデフォルトにもならないし、政府債務のすべてが増税による資産徴収によって解決されるわけでもない。

国債はどうなるのか

ダリオ氏が「誰かの借金は誰かの資産である」と言うとき、ダリオ氏が言いたいのは、借金が返済されないとき困るのは債権者だということである。

日本国債の多くは銀行が買っており、銀行は預金者のお金で国債を買っているので、国債の実質的な保有者は国民である。

これまでそれで特に問題は起こらないかのように見えた。だが歴史を研究したダリオ氏は、政府債務の増加は必ず紙幣印刷とインフレに繋がることを知っていた。

何故ならば、あるタイミングでインフレ政策は本当にインフレを実現してしまうからである。

そうなれば、インフレを抑えるために中央銀行は利上げしようとする。それはアメリカでも日本でも既に起きている。

だが利上げをすると国債に金利が付いてしまう。政策金利を5.25%まで上昇させたアメリカでは利払い費用が急増しており、国債の利払いのために国債を発行する自転車操業に陥っている。債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は、米国債は最終的には返済されないと予想している。

債務危機の本当の姿

国債の量がどんどん増えてゆく。ダリオ氏は次のように続けている。

国債をどんどん売らなければならなくなる。そうなればどうするのか?

日本では金利上昇はほとんど許容できない。1つには、日本経済が利上げに耐えられないため、もう1つは、日本の政府債務はアメリカより多額で、少し金利を上げただけで利払い費用が途方もない額になってしまうからである。

だから日本は金利を上げられない。ダリオ氏は次のように続けている。

日本は実質金利をどんどん押し下げなければならなくなってゆく。

実質金利を大きくマイナスにしなければならなくなる。その結果としてインフレが発生し、通貨の価値も下落しなければならない。

結論

それが日本流の政府債務の解決法である。それが今年の夏まで起きていた円安であり、ドル円はドル側の金利低下によって一時的に下落しているが、現在のドル安サイクルが終われば円安トレンドは再開するだろう。

筆者は現在の円高トレンドが恐らく日本円にとって最後の円高になるだろうと予想している。

日本人はこのサイクルのうちに円から逃げておくことである。


世界秩序の変化に対処するための原則