引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の自社配信動画である。今回は財政赤字と国債の金利について語っている部分を紹介したい。
アメリカの経済見通し
前回の記事では、ガンドラック氏はアメリカ経済はあと4ヶ月で景気後退に突入すると予想していた。
その理由の1つとして、ガンドラック氏は失業率のトレンドが景気後退前の状態と一致していることを挙げていた。
そして次にガンドラック氏が指摘するのは、失業率が上がって景気後退が来る時には財政赤字がどうなるかということである。
ガンドラック氏は次のように述べている。
この失業率のトレンドが続けば、財政赤字は今よりも悪化すると考えるのが普通だろう。
何故ならば、景気が悪くなり失業者が増えると政府は財政支出をして雇用を増やそうとするからである。
アメリカの財政赤字
財政支出の何が悪いのか。人々が財政支出を問題だと思わないのは、これまで財政支出が大した問題にならなかったからである。例えばリーマンショックなどの後にも大規模な財政支出が行われたが、特に問題はなかったと多くの人は思っているはずだ。
財政赤字は景気後退を和らげ、しかも何の副作用ももたらさなかった。だがアメリカや日本のように一文無しの国が財政赤字を増やすと国債を大量に発行する必要がある。
それでも問題が起こらなかったのは、その国債を大量に買い込んでくれる誰かが居たからである。中央銀行である。
普通、国債を大量発行すると金利は上昇する。国債の需要と供給のバランスが崩れ、供給過多で国債の価格は下がり、国債の価格下落は金利上昇を意味するからである。
だがリーマンショック以降、アメリカも日本も量的緩和で中央銀行に大量の国債を買わせてきた。だから財政赤字が増えても国債の価格は下落せず、金利も低いままだった。
だから日本でも財政赤字を増大させてもせいぜいドル円が100円から150円になり、輸入物価が50%上がっただけで済んだのである。
それで幸いだったと考えるかどうかはさておき、本来来るはずの国債暴落は起こらなかった。
しかしコロナ以降のインフレによって、アメリカでは量的緩和どころか利上げを行わなければならなくなり、遂には日本でも量的緩和が停止されることになった。
この状況で財政赤字を増やさなければならなくなればどうなるかである。
次の景気後退とアメリカの債務危機
問題は、アメリカの財政赤字が既に悪いということである。コロナ禍を乗り切ったにもかかわらず、アメリカの財政赤字はコロナ前の水準に戻っていない。
これはバイデン政権がやっていることであり、11月の大統領選挙で後任のハリス副大統領が勝てば財政赤字が悪化すると人々が懸念している理由である。
ガンドラック氏は次のように述べている。
財政赤字は既にGDPの5.5%でかなり悪いが、今の失業率は4.2%で、景気後退はまだ来ていないということになっている。
だからこの後どうなるか。景気後退が来れば、財政赤字は悪化するのが普通だ。
財政赤字は既にかなり悪化しているのに、ガンドラック氏はここからアメリカ経済が景気後退に突入することを予想している。
国債の下落が始まる
そうなれば財政赤字は更に増加し、市場に大量の国債が放出されることになる。だがそれを買ってくれる中央銀行はもういない。
ガンドラック氏は次のように述べている。
財政赤字が悪化すれば債券の需要と供給に大きな問題が生じる。
国債の需給に問題が生じればどうなるか? 国債は発行時には入札で買い手を募るが、その入札に買い手が集まらなくなる。
ガンドラック氏はこう続けている。
国債の入札が不調に終わればどうなるか?
その状況は好ましくない。そうなれば次の景気後退で金利が上がるという兆候になる。
国債の入札に異変が起きるとき、債券市場の投資家たちは米国債の需給崩壊が始まっていることに気付き始めるだろう。
反転するアメリカの長期金利
景気後退になれば金利は下がるのが普通である。ガンドラック氏も金利はまず下がると予想している。
彼は次のように述べている。
そうなるのは金利がまず下がってからだが、金利の下落は既に起こっている。10年物国債の金利は去年の10月に5.02%の高値になってから1年足らずで3.65%まで下落している。
10年物米国債の金利は次のように推移している。
何故金利が下がっているかと言えば、景気後退による財政赤字の急増はまだ起こっていないからである。
だがガンドラック氏の予想通り景気後退が起こり、財政赤字が実際に増え始めたとき、すべては変わるとガンドラック氏は予想する。彼は次のように言っている。
財政赤字で国債が乱発されても金利低下は続くか? そうは思わない。だから財政赤字に注目しておくことが非常に重要なのだ。
アメリカの債務危機
アメリカの債務危機は新しい話ではない。米国債の需給に問題が生じるというのは、今年の初めにポール・チューダー・ジョーンズ氏が指摘していたシナリオである。
だが投資家によってタイミングの予想は微妙に異なる。ジョーンズ氏は今年の大統領選挙、ガンドラック氏は次の景気後退、レイ・ダリオ氏は5年以内と予想している。
いずれにせよアメリカの政府債務の問題が大枠でどういう道筋をたどるかということでは全員の意見が一致している。詳しくはダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』を参考にしてもらいたい。
世界秩序の変化に対処するための原則