リーマンショックを予想したことで有名なジョン・ポールソン氏が、BloombergとFOX Businessのインタビューでアメリカ大統領選挙について語っている。
アメリカの経済と大統領選挙
米国経済は緩やかにではあるが減速している。それが株式市場にも表れている。
だが同時に金融市場は11月のアメリカ大統領選挙に向かっている。それは、もしトランプ氏が勝利すれば、トランプ氏の経済対策が相場の景気減速トレンドを経済成長トレンドへ転換させる可能性があることを意味している。
だが一方で、心配されているのがインフレ再燃の可能性と財政赤字である。アメリカではコロナ後の財政赤字拡大と金利上昇で国債の利払いが大幅に拡大しており、一部の著名投資家は国債の大量発行が国債暴落に繋がる可能性を指摘している。
だが2008年のリーマンショックでサブプライムローンの価格下落を予想的中させたポールソン氏は違う意見を持っているらしい。
ポールソン氏は次のように述べている。
わたしは財政赤字についてそれほど心配していない。
トランプ氏はすべての法人に対して減税するとは言っていないはずだ。彼は税率を上げないだけだ。前政権時に行なった法人減税を恒久化し、税率を21%のままにする。
トランプ氏が前政権時代に行なった減税は期限が切れようとしているが、トランプ氏はその減税の恒久化を公約にしている。
トランプ氏と財政赤字
ポールソン氏はトランプ氏支持を公言し、トランプ氏のアドバイザーになっている。
ではポールソン氏の発言はトランプ氏支持のポジショントークなのだろうか? だが少なくとも法人税については彼の意見には一理ある。
そもそも法人税はGDPの1.4%であり、それが何割か減ったり増えたりしたとしても経済全体への影響はそれほど大きくない。
それは同時に、法人減税はトランプ氏の経済対策にほとんど貢献していなかったことも意味する。ただ、法人減税は実質的に株主に対する減税なので、株価上昇に大きく貢献したというだけのことなのである。
だからトランプ氏の経済対策と財政赤字との関係を考える上では、法人減税はほとんど意味をなさない。
では何を考えれば良いか。ポールソン氏は次のように言っている。
トランプ氏の政策が財政赤字を減少させるか? 1つの方法は明らかに経済成長だ。経済が成長すれば税収も増える。
さて、こちらはどうだろうか。筆者は財政赤字の対策として経済成長を挙げた政治家で、実際に財政赤字を縮小させた人物を1人も知らない。
ポールソン氏はもう1つの対策として脱炭素政策への補助金のカットや関税からの税収を挙げているが、そちらも財政赤字縮小には大して貢献しそうにない。つまり、こちらは明らかにポールソン氏のポジショントークである。
だがポールソン氏は愚かな人物ではない。リーマンショックを予想した投資家であり、普段であれば優れた洞察を見せる人物である。
だがトランプ氏と親しく話しているポールソン氏がこうした擁護しか出来ないという事実から、投資家は1つの予想を立てることができる。トランプ氏はやはり財政赤字を悪化させるのではないかということである。
ハリス副大統領とどちらがインフレ的か
また、ポールソン氏の考察から読み取れることがもう1つある。トランプ氏ではなくハリス氏が勝利するとどうなるかということである。
ポールソン氏はトランプ政権とバイデン政権を比べて次のように言っている。
トランプ政権の4年間ではインフレ率の平均は年率でたった1.9%だった。金利も原油価格も非常に低く、実質賃金は上昇した。
労働者のための政治と言われているバイデン政権では実質賃金は下がった。インフレが高すぎたからだ。金利も原油価格も大幅に高くなっている。
現状、アメリカは現政権下で2兆ドルの財政赤字を抱えている。去年の財政赤字は2兆ドルだった。収入以上に支出していることがインフレの主な原因となっている。
トランプ政権がインフレ的・財政赤字的になるとしても、それはハリス政権ならばその逆になるということを意味しない。
むしろ、インフレと財政赤字は2020年から政権を担当しているバイデン大統領率いる民主党が引き起こしたことであり、その点においてポールソン氏とトランプ氏は正しい。以下の記事で検証したが、インフレの70%ほどは確かにバイデン氏の責任である。
しかもバイデン氏が認知症の傀儡大統領で、実質的に政権を支配しているのが民主党幹部たちだとすれば、それはバイデン氏からハリス氏に変わっても民主党政権である限りインフレと財政赤字は変わらないということを意味する。
一方でポールソン氏の言う通り、トランプ氏はコロナ禍だった2020年を含めてもインフレ率をきっちりコントロールしていた。
だからトランプ政権でインフレ的になるとしても、物価高騰にはならないかもしれないという主張には一理ある。
民主党政権継続なら金価格上昇か
そして最後にポールソン氏が言及しているのは金価格である。金相場は不安定になっている株式市場を尻目に安定した上昇を続けている。
ポールソン氏は金相場について次のようにコメントしている。
バイデン政権は非常にインフレ的な期間となった。インフレ率は最高で9%、平均でも年率5%以上だ。
一般論で言えば、よりインフレになれば金価格は上がることになる。ゴールドはインフレに対する防御だ。
もし民主党が政権を続ければ、財政赤字とインフレは制御不能になるのではないかという懐疑心で金価格は上がっている。
アメリカの財政赤字の拡大が止まらない中、貴金属の保有を推す著名投資家は増えている。