世界最大のヘッジファンド、Bridgewater創業者のレイ・ダリオ氏は、トランプ政権による減税や規制緩和で世界中の資金がアメリカに向かうとしている。
これは減税を理由にアメリカで事業を立ち上げようと思う人口の少ない日本人には分かりづらい感覚かもしれない。しかし、同じ英語圏でアメリカへの移住が現実的な選択肢となるオーストラリアでは、実際に資本と人材の流出懸念が議論されている。
オーストラリアとトランプ政権
ダリオ氏の言う世界からのアメリカへの資金流入というシナリオをより具体的に理解するためには、アメリカへの資本逃避が実際に現実となりつつある国の状況を知ることが一番だろう。オーストラリアの新聞であるThe Australianの記事(原文英語)はこう語っている。
トランプは法人税を35%から15%に下げようとしている。所得税の上限は25%となり、一人あたり25,000ドルまでの収入は税控除される。これが実現する時、すぐにそうなるだろうが、多くのオーストラリア人は資本を向こうに持ち出すだろう。
オーストラリアには中小企業を経営し、あるいは資産を持っている人々が大勢おり、彼らは雇用を創出し、住宅価格を押し上げ、オーストラリア経済を支えているわけだが、彼らにはオーストラリアに留まる必要はないのだ。
因みにオーストラリアの法人税は30%であり、これは他の先進国と比べても高い水準である。
考えてみてもらいたいのだが、英語を母国語とするオーストラリア人がキャンベラからシドニーへと移るのと、あるいはニューヨークへと移るのとでは、日本人が考える住所変更と海外移住ほどの差はないのである。
ある程度の文化の違いは当然あるのだが、しかし言語は問題なく通じる環境であり、生活するために不自由するほどの差ではない。それでも母国である程度生活したいと思う企業家には、The Australianは以下のような提案をしている。
あるいは、彼らは年に半年ほどはオーストラリアで生活するかもしれないが、ビジネスは向こうで行うだろう。オーストラリア国内のビジネスは、精々彼らのアメリカでのビジネスの子会社となる。
これが事業を行う国を自由に選べる企業家に可能な選択なのである。この感覚が分からなければ、ダリオ氏の言うアメリカへの資本逃避の本質は具体的には理解出来ないだろう。
グローバルな企業家が事業を行う国をどのように選んでゆくのかという点については、以下の記事で解説した。
多くの日本人はある意味で日本国内に閉じ込められているのであり、国内しか選択肢がないゆえに税制や規制の面で自分勝手な日本の政治家の言いなりにならなければならないのである。しかしより多くの選択肢を持った日本人は、政治の欺瞞に対抗することが出来るだろう。財務省やOECDの言いなりになる必要はないのである。
日本の法人税
ちなみに、トランプ政権の大幅な法人減税にもかかわらず、米国への資本逃避懸念が一切議論されていない日本では、その状況そのものが経団連の言う法人減税の必要性、つまり他国の低い税率に合わせて法人税を下げなければ事業が海外に流出するという主張が自分勝手な欺瞞であることを示している。
低い法人税を理由に海外で事業を行える日本のビジネスマンなどほとんど存在しない。法人減税は単に、社内政治の他にほとんど取り柄のない役員連中の集まりである経団連が、より高い役員報酬を得るためだけに自民党と結託しているだけの話なのである。
以下の記事で書いた通り、日本の経済政策はマクロ経済学とは一切関係がなく、法人減税を望む経団連と消費増税を望む財務省の談合によって決まっている。自民党とは談合のためのシステムである。
日本は法人増税と消費税撤廃を行うべきであり、上記の記事で書いた論理を否定出来る日本の政治家など誰一人としていないだろう。しかし、日本の政治が日本国民のために行われることはない。それはもう何十年も変わっていないのである。