引き続き、アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏のBridgewaterによるインタビューである。
今回はChatGPTを開発するOpenAIの取締役でもあるサマーズ氏が、AIなどの技術革新について語っている。
新しい技術と未来予想
投資家にとって新たな技術とどう向き合うかは難しい問題である。例えばAIの演算に使われるGPUを作っているNVIDIAの株価はこれからのAIの需要を正しく反映しているのだろうか?
サマーズ氏は新しい技術との向き合い方について次のように言っている。
新しい技術について一般的に言えることは、技術の進歩は思ったよりも遅く、しかしその後で予想の限界を超えた速さで進歩し始めるということだ。
1998年か1999年の始め頃に若きジェフ・ベゾス氏が財務省に来たとき、もし自分が投資家ならショッピングモールの株を空売りするべきかどうか話したことを覚えている。
ベゾス氏はAmazon.comの創業者であり、1999年にはAmazon.comはまだメジャーではなかった。
だが人々が実店舗ではなくオンラインで買い物をするようになるという未来を見ていた人からは注目されていた。それでサマーズ氏はショッピングモールがなくなると思った。
早すぎた未来予想
ショッピングモールはその後すぐに潰れただろうか? その予想は早すぎた。ショッピングモールは1999年には潰れなかった。
サマーズ氏は次のように言っている。
それは当時のトレーダーたちにとっては間違ったアイデアだったが、それでもそれはその後の25年間に対する深い真実を含んでいた。
例えばアメリカのショッピングモール大手だったGGPは、確かに倒産した。その10年後の2009年に。
だが半分は正しかったはずである。ショッピングモールはすぐ倒産しなかったとしても、Amazon.comはそのまま成長した。だから当時Amazon.comに投資をしていれば投資家は報われたのではないか。
1999年にAmazon.comに投資をした投資家がどうなったかは、当時の株価チャートを見れば分かる。
5分の1に暴落している。何故かと言えば、ドットコムバブルが2000年に崩壊したからである。バブル崩壊時にはAmazon.conやMicrosoftなど、その後成長する企業の株もまとめて売られた。
正しいアイデアとタイミング
サマーズ氏は次のように振り返っている。
わたしたちの考えは完全に正しかった。だがその後5年間の行動のためのアイデアとしては間違っていた。
もし2000年に電子書籍がいつ来るかを尋ねるのは早すぎた。だが2010年に自分が紙の新聞を2017年までに読まなくなっている可能性を聞かれれば、可能性は低いとわたしは答えただろう。
だから「速いと思ったよりも遅く、遅いと思ったよりも速い」はAIや他のことについて考える時にも強力な考え方になるだろう。
投資において「早すぎる」ことは優秀な投資家にむしろありがちである。
例えば上記のドットコムバブルでは、当時ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを運用していたスタンレー・ドラッケンミラー氏は、バブル崩壊を早期に予想したがなかなか崩壊せず、まだ来ないと思って買いに転換した瞬間にバブルが崩壊するという憂き目に遭っている。
タイミングとは難しいものである。筆者もAIの需要はまだ初期段階で、これからもっと大きな市場になると考えているが、それでも相場は一直線に上がり調子で進み続けるわけではないだろう。
実際、去年からAI銘柄筆頭のNVIDIAに投資していたドラッケンミラー氏は、AI相場がドットコムバブルのようになる可能性を警告している。
ドラッケンミラー氏がNVIDIAから乗り換えたAI銘柄については以下の記事で解説している。