サマーズ氏: 米国は利下げで金利を下げ過ぎる可能性

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、先日のFed(連邦準備制度)のパウエル議長のジャクソンホール会議での講演にコメントしている。

アメリカの利下げ開始

パウエル議長はジャクソンホールで利下げの開始を宣言した。9月のFOMC会合から開始されると予想されており、コロナ後にゼロから5.25%まで利上げした後の初めての利下げとなる。

パウエル氏の利下げ宣言に対し、サマーズ氏はどう考えているのか。サマーズ氏は次のように述べている。

パウエル氏の姿勢は大まかに言って正しいと思う。インフレは下がってきている。経済は減速している。現在の経済データから判断すれば、次の一手は間違いなく金融緩和であるべきで、パウエル氏はそのように言った。その通りだと思う。

アメリカではインフレ率も遂に2%台になった。これまでインフレは根強いと言い続けてきたサマーズ氏だが、利下げ開始は正しいと考えているようだ。

コロナ前とコロナ後の違い

だがサマーズ氏がパウエル氏に同意するのは「利下げ開始」というところまでのようである。

パウエル氏は講演で経済指標が「コロナ前の水準まで戻った」ことを強調していた。それは最近何度も繰り返していたフレーズである。

そして、だからコロナ前と同じ水準まで金利を下げられる、という論理に繋げるなら、アメリカは大幅な利下げをすることになるとジェフリー・ガンドラック氏は指摘していた。

だが、サマーズ氏はコロナ前と今では状況が違うと言っている。サマーズ氏は次のように述べている。

金融政策や経済全体に影響する可能性が高い重要な問題で、パウエル氏が言及しなかったものがある。

今後数年に予想されている記録的な財政赤字についてパウエル氏は何も言わなかった。そして同時に再生可能エネルギーやデータセンターなどへの投資需要は高まっている。

アメリカの財政赤字はコロナ後もコロナ前の水準より高いまま推移している。

だから金利がコロナ前の水準に戻れば、財政赤字によるばら撒きの増加分が押し勝ってインフレになるというのがサマーズ氏の主張である。

金利は何処まで下がるのか

これをマクロ経済学的に言えば、経済に好影響も悪影響も与えない金利水準である中立金利がコロナ後に上がったということである。

財政赤字が増えたので、その分金利も上げなければインフレになってしまう。

だがサマーズ氏によれば、パウエル氏はそれを無視している。サマーズ氏は次のように続けている。

中立金利がいくらになっているのかという問題には、パウエル氏はほとんど触れなかった。

Fedの見方では中立金利は2%台の何処かということになっている。だがわたしの意見ではそれは極めて可能性が低い。そして何処に行けば良いかが分かっていなければ、旅は確かなものにはならないだろう。

Fedは中立金利をそれほどまでに低いと考え、結果として金融政策の引き締め度合いを誤認するという深刻な間違いを犯している。

金利先物市場によれば、政策金利は来年末までに2%下がり、3.25%になると予想されている。

結論

サマーズ氏は市場の金利予想について次のように言っている。

今後2年で市場が予想しているレベルまでに金利を下げることが本当に可能ならかなりの驚きだ。

今後の利下げを織り込んでアメリカの長期金利は次のように推移している。

財政赤字ということで言えば、11月のアメリカ大統領選挙の候補者は2人とも財政赤字を減らしそうにないということだけは言える。

今の金利低下は行き過ぎで、インフレ減速相場がインフレ再加速相場に転換する時が来るのだろうか。あるいはインフレはこのまま本当に収まるのだろうか。

歴史上、インフレ政策を止められた国家はほとんどないということを著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で解説しているレイ・ダリオ氏は、答えは明らかだと言っていた。


世界秩序の変化に対処するための原則