ガンドラック氏: 金価格上昇の理由はハリス副大統領の食品の価格統制の公約

引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏のツイートを紹介する。今回はカマラ・ハリス副大統領の公約と金相場について語っている部分を紹介したい。

ガンドラック氏のハリス氏批判

バイデン大統領を引き継いで大統領選挙に立候補したハリス副大統領をガンドラック氏がTwitterで連日批判している。前回の記事ではハリス氏の医療ローンの帳消し公約はむやみに医療費を高騰させると怒っていた。

ガンドラック氏は大統領選挙でハリス氏もトランプ氏も支持しておらず、民主党支持でも共和党支持でもないのだが、間違った経済政策は許容できないということだろう。

そしてガンドラック氏がもう1つ批判しているのがハリス氏の価格統制政策である。

食品の価格統制

これはハリス氏だけでなくハリス氏の所属する民主党全体に言えることだが、アメリカ民主党はコロナ後に発生したインフレを強欲な企業が価格を釣り上げているせいだと主張している。

だが実際にはインフレはバイデン政権(とトランプ政権)が行なった現金給付によって発生した。

つまり、民主党の政治家は自分で発生させたインフレを強欲な企業のせいだと主張しているのである。

この論理は無茶苦茶であり、民主党支持者でクリントン政権の財務長官も務めたラリー・サマーズ氏でさえその論理を批判していた。

サマーズ氏はやや気まずそうに次のように言っていた。

企業が最近急に強欲になったという議論は無理があると思う。

ガンドラック氏の価格統制批判

民主党の理屈はほとんど馬鹿のための経済学である。だがハリス氏の愚かさはそこでは終わらない。ハリス氏が今回の大統領選挙で公約しているのが「価格釣り上げの禁止」だからである。

具体的には食品の値上げを制限するようだが、そもそも「価格釣り上げ」とは何なのだろうか? 誰がその範囲を決めるのか? 経済学者でも算出に困るような「適正価格」が民主党には分かると言うのか?

そもそも民主党の理屈は企業が原材料の価格上昇以上に製品価格を上げているという話なのだが、ガンドラック氏は企業の仕入れ価格である生産者物価と製品の価格である消費者物価を比べて次のように言っている。

2021年1月から消費者物価は19.7%上がったのに対して、生産者物価は20.6%上がっている。何処に「価格の釣り上げ」がある?

生産者物価(仕入れ値)は消費者物価(商品価格)より上がっている。つまり、企業の利ざやはむしろインフレによって狭まっている。

なので「価格の釣り上げ」はそもそも存在すらしていない。企業の強欲さによってインフレが発生しているという話が民主党による妄想なのだから当然である。で、ハリス氏は「価格の釣り上げ」を禁止すると言うが、一体何を禁止するつもりなのか?

価格統制とインフレーション

ハリス氏が存在しない価格の釣り上げを規制するとき、企業は原材料高騰による自然な値上げが出来なくなって潰れてゆくだろう。大統領選挙でどちらも支持していないガンドラック氏がこれだけ批判するのも当然である。

そもそもインフレを価格統制で何とかしようという考え方自体が経済学の観点からは致命的に間違っているのである。

インフレの原因は需要に対して供給が足りないことである。つまりものが不足している。そして価格上昇はものの不足という根本的な問題を是正するために必要なプロセスなのである。

ものが足りなければ価格が上昇する。価格が上昇すれば生産者のモチベーションが上がり、より多くものを作ろうとする。そして供給が増え、価格が安定してくる。

だが価格の上昇を無理矢理止めるとどうなるだろうか? 供給が増えないのでものの不足という根本問題が一向に解決しない。

ハリス氏の言うような「価格が上がるなら価格を上げさせなければ良い」は、前回の記事における医療ローン免除と同じような、聞こえは良いだけで実際には問題を悪化させるだけの政策なのである。

そんなことはインフレの歴史を少しでも学べば分かる。だからガンドラック氏は次のように言っている。

価格統制を公約の中核に置くことは世界経済の歴史を完全に無視しており、どれだけ控えめに言ってもナイーブ止まりの考えだ。

結論

ハリス氏は11月の大統領選挙に向けて様々な経済政策を発表している。だが彼女は現職の副大統領でもある。だからガンドラック氏は次のように言っている。

ハリス氏は「大統領になった初日」にインフレを押し下げると言った。何で今やらないんだ?

身も蓋もない。彼女は大統領候補として何か言わなければならないために何かを言っているに過ぎない。

また、ガンドラック氏は金相場に関して重要なコメントをしている。彼は次のように述べている。

金融市場の血も涙もない判断を見た方が良い。

更なる債務と紙幣印刷を必要とする補助金政策と食品への価格統制が発表された途端、金価格は即座に大きく上がった。

レイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で解説しているように、歴史上、紙幣と価格が政府によって乱用されるときにはいつでも、紙幣から現物資産への資金逃避が始まる。

ガンドラック氏はそれでゴールドが上がっていると言う。金価格は次のように推移している。

ハリス氏でもトランプ氏でも経済政策はインフレ方向になりそうな気はしている。

なので長期的に言えば筆者も貴金属には強気である。インフレ相場はインフレと経済が減速した時に本当の正念場を迎える。


世界秩序の変化に対処するための原則