ジョージ・ソロス氏、世界的な株安が始まる前に米国株を売っていた

機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fの季節である。まずはジョージ・ソロス氏が保有し、ドーン・フィッツパトリック氏が運用しているSoros Fund Managementのポートフォリオを見てゆきたい。

リスクオフのソロス氏

今回公開されたのは6月末のポートフォリオなので、7月に始まった株価下落の直前となる。個人投資家が大騒ぎしていた急落の前、ソロス氏は米国株をどうしていたのかと言えば、着々とポジションを減らしていた。

Form 13Fに報告されているポジション総額は次のように推移している。

  • 2023年12月末: 76億ドル
  • 2024年3月末: 60億ドル
  • 2024年6月末: 56億ドル

Form 13Fではオプションの買いも報告されており、ソロス氏の場合は株価の下落に賭けるプットオプションの買いが株式8億ドル分含まれているので、それを打ち消すとソロス氏の実質的な米国株の買いは40億ドル程度ということになる。

米国株は次のように推移している。

7月からの下落の前に米国株をかなり売っていた形となる。

フィッツパトリック氏の相場観

ソロス氏は何故米国株を処分しているのか。ソロス氏に運用を任されているフィッツパトリック氏の相場観を思い出してみれば、その考えが読めるかもしれない。

2022年、大幅な利上げによって多くのファンドマネージャーがアメリカの景気後退を見込んでいた中で、フィッツパトリック氏は次のように述べていた。

景気後退が来るかどうかについて多くの人が議論しているが、最低限予想できることは、景気後退は避けられないということだ。それはいつ来るかの問題でしかない。

市場の織り込みを見ると、市場は景気後退をかなり早く来ると織り込んでいる。どの資産クラスを見るかにもよるが、2023年内だ。

だが、実はわたしは市場が間違っているのではないかと思っている。

その理由は、消費者の財政状況が極めて良いからだ。

フィッツパトリック氏は2023年までに景気後退が来ないことを知っていた。一方で、高金利による景気後退は不可避だとも言っていた。

その答えは、景気後退は2024年か2025年ということである。そして以下の記事で検証した通り、景気後退の半年前には株価は下落する。

もちろん2022年の時点でのフィッツパトリック氏の相場観は今ではある程度は修正されているだろう。だが米国株を売っているということは、彼女はアメリカ経済に対して良い印象を持っていないはずである。

個別株トレード

また、個別株のトレードで興味深いのはAppleのプットオプションである。ポジションの規模は株式1.6億ドル分となっている。

プットオプションは株価の下落で価値が上がるので、フィッツパトリック氏はApple株の下落の予想しているということになる。Appleの株価は以下のように推移している。

Appleの株価収益率は30倍であり、ハイテク株としては比較的普通の水準である。フィッツパトリック氏は景気後退局面でハイテク株全体が売られるシナリオを想定しているのだろうか。

結論

ということで、Soros Fund Managementは株価下落前に米国株を処分していたことが明らかになった。恐らくはフィッツパトリック氏がアメリカの景気減速を見込んでいるからであり、その点では筆者の相場観と一致している。

だがアメリカでは先行指標の失業率はかなり上昇しているものの、実質GDP自体はまだ3.1%の成長率となっており、筆者は少なくとも11月のアメリカ大統領選挙までは保つだろうと考えている。

そうであれば、その後どうなるかは新大統領の経済政策次第ということになる。来月はいよいよトランプ氏とハリス氏の討論である。