引き続き、アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏のBloombergによるインタビューである。今回は日銀の利上げについて語っている部分を紹介したい。
日銀の利上げ
前回の記事ではサマーズ氏はアメリカは利下げを急ぐべきではないと主張していた。アメリカのインフレは下がってきたが、サマーズ氏はやはりインフレ再燃を警戒しているようだ。
しかしインフレに対応するために利上げした日銀については、サマーズ氏は別の考えを持っているようだ。
彼は次のように述べている。
わたしが初めて車の運転を学んだ時や、子供に運転を教えた時のことを思い出せば、初めて運転する人はハンドルを回しすぎることが分かる。
ハンドルを1つの方向に回しすぎて、今度は逆の方向に回そうとするが、今度はその方向に回しすぎて道を波のような形に進むことになる。
中央銀行家、特に新米の中央銀行家はそういう政策転換をする傾向がある。
日本で起こっているのはそういうことではないか。これほど長く続いたこれほどの低金利からの離脱は、もっと緩やかに行なうことができたはずだ。
株価下落に対する反応
サマーズ氏は日銀は利上げを急ぎすぎたと考えているようである。世間では最近の株価下落は日銀のせいだということになっている。
株価下落のあと、日銀は市場が不安定な状況で利上げを強行することはないと言って火消しを図ることになった。だがその対応もサマーズ氏はやり過ぎだと考えているようである。
彼は次のように続けている。
それに、日銀は自分の行動が市場に大きな反応を引き起こした時に、市場の反応に対してそれほど大騒ぎする必要もなかったはずだ。
いつでも落ち着いた態度でいるべきだ。そうすれば自分の行動が大きなものに見えなくなる。
最終的には日銀の行動がそれほど重大な結果になるとは思わない。日本の金融政策には遅かれ早かれそういう調整が必要だった。
だが今週のオリンピックの言葉で言えば、日銀の点数のうち表現力の部分を多少減点すべきだろう。
サマーズ氏によれば、日銀はどちらに舵を切るにしてもやり過ぎたということである。
結論
以上のように、サマーズ氏は日銀の利上げを時期尚早だったと考えているようだ。それには一理ある。日本経済は利上げの前から既にかなり弱っているからである。
筆者も以下の記事で次のように書いている。
植田氏は確かに「引き続き」と言っている。つまりこれからも利上げするということである。
だが正直筆者は日本経済がそれに耐えられるとは思えない。何度も言うが、日本経済は既にマイナス成長なのである。
だが一方で、植田氏が7月の会合で利上げしなければドル円は上がっていたはずだ。ドル円が上がれば輸入物価は上昇し、インフレは止まらなくなる。
だから植田氏はどちらの選択肢を選んでも別の理由で批判されていたはずなのである。経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏が『貨幣論集』で以下のように述べていた通り、インフレを止めようとする人は問答無用でそういう状況に追い込まれる。
将来の失業について責められる政治家は、インフレーションを誘導した人びとではなくそれを止めようとしている人びとである。
だからこの件で責任があるとすれば植田氏ではなく、円安政策でインフレを引き起こした前総裁の黒田氏だろう。
ハイエク氏は『貨幣論集』で次のようにも言っていた。
しかし、短期において支持を獲得することができれば、長期的な効果について気にかける政治家が果たしているだろうか。
貨幣論集