日経平均暴落、NISAで株式投資を始めた初心者が見逃していた長期投資の問題点

8月5日、日本の株式市場が大幅下落した。日経平均は1日で12.4%の下落となり、近年稀に見る株価の下落幅となった。

株価暴落の理由

日経平均は次のようなチャートになっている。

なかなかの急降下である。7月の史上最高値から見ると25%程度の急落となっている。

株価下落の原因は何かと言えば、それは世間で言われているように日銀植田総裁の利上げではない。0.25%の利上げに株価を暴落させる力はない上に、長期金利はそもそも上がってすらいないからである。だから金利が株価下落の原因だという議論は有り得ない。

では何が原因かと言えば、以下の記事で既に説明しておいたのでそちらを読んでもらいたい。

NISAで投資を始めた初心者たち

だから今回の記事で議論したいのは、株価下落の根本的な原因のことではなく、株価が下がった時に群れをなして売ろうとした人が多かったことである。投資家として暴落相場を何度も見てきた筆者が見ても、下落が下落を呼ぶ速度が早かったように思う。

恐らく株式市場についてほとんど何も知らずにNISAがブームだと聞いて投資を始めた人が株式市場にあふれていたのだろう。彼らが株式を買った理由は株価が上昇していたことだったから、株価が下落に転じればそれがそのまま株式を投げ売りする理由になる。だから下落が下落を呼ぶ。

ここ数年ほど、筆者は主婦や普通の会社員など金融業界とは無縁の人々にNISAについて尋ねられることが多かった。そうした人々の多くは実際には客観的なアドバイスなど求めていなかった。「買って放置すれば金が儲かる」という売り文句に吸い込まれた自分の背中を筆者のような金融業界の人間に後押ししてほしかっただけなのである。

一番酷い場合には、NISAを貯金の代わりか何かだと勘違いしていた人もいる。その人は、株式投資のリスクを淡々と説明した筆者に対し、不満そうな顔をしながら「儲からなくても、損しなければ良いと思ってるので」と答えた。「株価は下がるものですが」と言う筆者に対してその人は不思議そうな顔をしていた。

今回の下落では、そうした人々が想像もしなかった(筆者は説明した)下落に対して大急ぎで逃げ出したのだろう。

株式の長期投資

さて、もう少し賢明な人々は、NISAが長期投資であることを理解していただろう。だがそうした人々に対する試練はこれからである。何故ならば、そうした人々はまだ株式を売っていないだろうからである。

筆者は以前から説明しているが、NISAの一番の問題点は、株式の長期投資がまるで必ず儲かるものであるかのように説明されていたことである。

株式投資は短期的には上下することもあるが、長期的には安定して儲かるものである。それが上述の初心者よりも少し賢い投資初心者が株式長期投資に対して持っている理解である。

だが残念ながらそれは間違っている。日経平均が30年ぶりに史上最高値を更新したというニュースが流れたとき、大半の人は喜んだが、少数の賢明な初心者の頭には不安がよぎったはずだ。何故ならば、それは日本株に30年投資しても損しか出ていなかったことを意味するからである。

それが恐らく投資初心者に気づきの機会が与えられた一番最初だっただろう。株価は長期的に必ず上がるわけではないのか?

株価の長期的な動向

その問いに対する答えは、筆者はここの記事で既に書いている。ここの読者には言うまでもないことだが、株価の動向に対して正しい原則はこうである。

株価は「金融緩和が行われている状況下では」常に長期的に上がってゆく。

だから日本株はバブル崩壊後、金利がゼロに近づいて十分に利下げできなかった期間は下がり続けて、2013年のアベノミクスで量的緩和が始まると上昇トレンドに転じたのである。

分かりやすいチャートではないか。

米国株の長期的動向

そしてその原則は日本株のみならず、米国株を含むあらゆる国の株価に対して当てはまる。

NISAで米国株に投資している人の論理はこうである。米国株は過去数十年上がり続けている。だからこれからも数十年上がり続ける。

だが上の原則を知った人はこう訂正するだろう。米国株は金融緩和によって過去数十年上がり続けた。だから、「もしこれからも金融緩和が続けば」、数十年上がり続けるだろう。

実際、アメリカでは1980年から2021年まで41年間長期的に金利が低下していた。アメリカの政策金利は次のようになっている。

だから過去40年間の米国株の上昇は、この金利低下(そしてその後の量的緩和)が原因なのである。

アメリカが40年も金利を下げ続けられたのは、それがデフレの時代だったからである。しかしコロナ後のインフレによってアメリカは金利を上げなければならなくなった。

過去数十年の米国株のチャートしか知らない人々は、金融緩和時における米国株の推移しか知らないわけである。

ではインフレ・金利上昇の時代に株価はどうなるか。1980年より前、アメリカは物価高騰の時代だった。そして上のチャートを見れば分かるように、金利は上がり続けていた。

そしてその時の米国株のパフォーマンスは、以下の記事で検証したように長期的に酷かったのである。

結論

そして今、相場はどちらなのか。デフレと金融緩和の時代なのか、インフレと金利上昇の時代なのか。投資家はそれを考えなければならない。

日本株がそうだったように、株式の長期投資で損失が出る国もある。世界には無数に国があり、株価が上がる国もあれば下がる国もある。

そしてアメリカが過去40年金融緩和のトレンドにあったからと言って、今後40年そうなる保証はまったくない。というか現状アメリカ経済はその逆を行っている。

だから短期投資でも長期投資でも、投資家は結局正しい投資先(株価インデックスを買う場合には国)を自分で見つけなければ利益を得られない。金融政策の状態から言って株価が長期的に上がる状態にある国もあれば、株価が長期的に下がる状態にある国もあるからである。

そしてその国の株価が過去数十年上がり続けていることは、今後数十年の株価動向に何の意味も持たない。ここまで読んだ読者ならばそれは分かるだろう。国の経済にはサイクルがあり、アメリカはデフレと金融緩和のサイクルを通り抜けただけである。

アメリカが次にどういうサイクルを通り抜けるのかは、長期的な話ならばレイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』に書かれている。ダリオ氏は日本株の暴落を予想していた。

日本とアメリカの経済に関する短期的な話ならば、以下の記事に書いてあるので参考にしてもらいたい。

だから結局、投資家は予想を立てなければならない。株価インデックスに長期投資するのであれば、その国の今後数十年の金融政策を予想しなければならないのである。

買って寝ていれば儲かる投資など存在しない。本当に存在するのであれば、プロのファンドマネージャーは毎日出社して世界経済をリサーチなどしていない。そんな当たり前のことに、ほとんどの投資家は暴落を経験しなければ気づけないのである。


世界秩序の変化に対処するための原則